Weps うち明け話 文:清尾 淳

#938

12月8日(金)

 試合前日。
 13時に電話でNHKさいたまの「週刊サッカー王国」に出演。ラスト30秒ぐらいで喉の調子が悪くなった。僕は比較的喉が弱い方で、のど飴を常備しているのだが、まさか舐めながらしゃべるわけにもいかず、大丈夫だろうと話し始めたのだが、やはり空気の乾燥のせいだろうか。後で聞いていたサポーターから「大丈夫ですか」とメールをいただいた。本格的に風邪を引くのはまだ早い。シーズンは終わっていないのだから。

 オフィシャルメディアのメンバー3人もホテルに到着していて、一緒にタクシーでスタジアムに行く。今日は前日記者会見と前日公式練習がある。最初の15分だけ公開というやつだが。
 その前にアクレディテーション(AD)カードをもらわねばならず、スタジアムの外にあるADセンターに行く。昨日のレッズの練習場の近くで、場所は確認しておいたので、僕が大威張りで先導する。昨日は係員の英語が細かいところまで理解できず、相当歩いたことは内緒にした。

 プレハブっぽいセンターに着くと、何か所かあるチェック場所にそれぞれ案内される。そこでパスポートを見せて、何かを入力してもらえばOK…、のはずだったが、僕の前の係員はパソコンの画面を見て、申し訳なさそうに首を振り何か言う。わかったのは「セキュリティー」「アプローバル」ぐらい。だが首を横に振るのは万国共通「NG」の意味だ。
 まさか、うそだろ!
 もう手続きが終わった近藤篤カメラマンに助けを求める。曰く「FIFAの承認は降りてるんだけど、地元警察か何かのアプローバルがまだらしい」。
 地元の警察? 俺はUAEで悪さをしたことないぞ、たぶん。
 まあ、申請が遅かったので遅れているんだろう。後でまた来るしかない。

 しかし、18時からの記者会見には入れない。今は14時半。みんなはスタジアムの中のメディアセンターに行くという。他にすることもないので、場所を確認するだけでもと思い、一緒に行った。スタジアムに入る最初のゲート、埼スタで言うと北門、南門みたいなのが全部で6か所ぐらいあるようで、そこのチェックは緩かった。4人のうち、先頭がADをぶら下げているのを見ただけで、みんな入れというゼスチャー。メディアセンターはちょうど反対側で、埼スタより広い外周を半周するのはけっこう歩きごたえがあった。自分だけ,またこの道を戻ることになるのか、と思ったが、不思議と両手が空いているときの僕は、歩くのを厭わない。メディアセンターの入口に着き、みんなは中へ。僕もチャレンジしたが、さすがにここの警備は見逃さなかった。「後で(ADを)取りに行くことになっている」と言っても駄目だった。まあ想定内、というより想定のど真ん中。

 同じコースを通って帰るのもシャクなので反対側から回ったのだが、日差しの方向以外、何も変わらない。ワールドカップの会場って、もっとイベントブースがいっぱいあったはずだが、何の準備もされていない。明日になったらできるのか。10年前の横浜はどうだったっけ。あ、女子トイレがちゃんとある。などと、考えながら歩いているうちに元のゲートに着いた。
 どうする。一度出たら、次は1人だから絶対に入れないぞ。でもメディアセンターに行けなければ、他に時間をつぶせるところは、ゲートの中にない。どうせ、18時の記者会見の前にADセンターに行かないといけないんだから、その近くに行っていた方が良くはないか。結局、ゲートを出た。
 ADセンターの近くまで行くと、何とさっきは気が付かなかったが、木のテーブルとイスがあった。水も非常食も持っているから、ここで17時ごろまで約2時間、生き延びよう。テーブルとイスさえあれば仕事はできる。

 17時。
 ADセンターは18時までで、ギリギリだと記者会見に間に合わない。再びセンターに入り、パスポートを出す。しかし、やはり駄目だった。たしかに今日の14時に駄目なものが17時にOKになるほど、手続きが迅速にされるとも思えない。仕方がない。明日の試合前に来るしかない。
 これで会見には入れなくなった。しかし19時からの公式練習とその後の取材は、レッズの広報が認めれば大丈夫のはず。さらに2時間、ここで待とう。パソコンのバッテリーもそれくらいは十分持つ…と思ったら、しばらくして画期的なことが起こった。10年前から通算して中東には延べ20日ぐらい滞在しているが、その中で初めて体験する雨。
 その昔、砂漠を旅する人々にとっては恵みの雨だったのだろうか。顔を上げて、口で雨水を受け…などと感慨にふけっている余裕はない。急いでパソコンを仕舞い、パーカーを着る。

 わかったよ。どうしても俺には取材するなって言うんだな。帰ればいいんだろ、帰れば。覚えとけよ。
 誰にぶつけていいのかわからない怒りを憤りというのだろう。その字のとおりプンプンしながらタクシーを拾い、プンプンしながらホテルに帰った。

(2017年12月18日)

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