Weps うち明け話 文:清尾 淳

#956

タイムトンネル

 僕の心の琴線はあまり奥底に仕舞われていないので、けっこう頻繁に揺らされる。
 この仕事をしていると、そうなるのかもしれない。

「タイムトンネル」
 今回はクラブスタッフのその言葉でスイッチが入った。
 浦和美園駅から埼スタまでの歩道のフェンスに掛かっている、レッズサポーターのビジュアル応援のバナー。あれがだいぶ劣化してきたので、リニューアルしたい。ただ新品にするだけではなく、素材の写真も新しく選んでヒストリーにしたい。埼スタまでの道を、浦和レッズの歴史がわかるタイムトンネルにしたいんだ。
 クラブスタッフはそう熱っぽく語った。

 一昨年にMDPが通算500号を迎え、昨年は浦和レッズ25周年関連の仕事をいろいろやり、直接の関係はないが自分は還暦を迎えた。過去の写真やMDPを見返す機会が多くなる中で、考えることがあった。
 25年間で撮り溜めた写真の中で、レッズサポーターのビジュアル応援のものを「今のうちに」歴史としてまとめておいた方がいいのではないか。
 本当なら、レッズサポーターの歴史をまとめる、という大きな仕事も誰かがやる必要があると思うが、それは自分一人でとてもできることではない。しかし、自分が撮ったビジュアルの写真を時代に沿って並べ、それぞれ当時の状況や背景がわかるようにする、という作業なら何とかできる。

「今のうちに」というのは、もちろん自分の記憶が定かのうちに、あるいは誰かに尋ねることができるうちに、ということだ。
 こういうことは現役を引退してからやるものなのかもしれないが、それだと身体も頭もどうなっているかわからない。本業をやりながら、そういう作業をするというのは大変そうだが、逆にリズムとしてはハイペースを維持できる。僕はヒマになったら絶対にノンビリしてしまうだろうから。
 偉そうに聞こえたら嫌だが、この仕事はおそらく自分にしかできないことだろうし、ここまで浦和レッズに関わって仕事をしてきた者の責任のようなものもある。
 どういうふうに形で表に出るのか、そもそも表に出るのかもわからないが、その準備をするだけなら経費はかからない。今後は日常の仕事と並行してそれをやっていこうか、と考えていた。
 そう考えたのはUAEのホテルに一人でいるときだ。あの時期は禁酒していたし、作るべきMDPもなかったから、考える時間が夜たっぷりあった。

 そしてUAEから帰って、クラブスタッフと雑談しているとき、その話をしたら「じゃあ」と、上記のバナーのことが持ち上がったのだ。
「埼スタで展開されたビジュアルで」「1年に1試合で」「勝った試合で」という条件がついており、僕が考えていたものとイコールではないが、一つの形になることは間違いない。心の琴線が激しく揺らされ、自分が協力させてもらえるなら、こちらからお願いしたいくらいだと返答した。
 前回、このバナーを作るときにも何枚か写真を提供したが、今回は2001年から2017年までの流れを振り返りながら、17年間の写真を1枚ずつ選ぶところから始めた。フェンスに張られるのはバナーだけで、状況や背景は書けないから、オフィシャルサイト上で少しずつ紹介していくことにしている。

 3月4日のホーム開幕を前にすでに17枚が張られたそうだ。美園駅から歩くと、まず2001年から2017年までのビジュアル写真のバナーがあり、続いてOSC(オフィシャルサポーターズクラブ)のフラッグが1991年から2017年のものまで張られている。車が通らないから、見ながら歩いていても危なくないだろう。
 今年は、埼スタまでのタイムトンネルを楽しんで欲しい。
EXTRA
 僕の世代は「タイムトンネル」と聞くと、子どものころNHKでやっていた海外ドラマのタイトルを思い出す人が多いかもしれない。SFドラマで、不完全なタイムマシンに乗って毎回違う時代にタイムスリップしてしまう2人の科学者の物語で、その機械の入口の通路がトンネルのようになっていたから、そんなタイトルになったのだろうか。
 どの時代のどの場所に行くかコントロールはできないのに、2人がどこにいるかは研究所の画面で見られるという「便利な」設定だった。「テレビカメラはどこにあんねん」という質問を思い浮かべるほど、まだ僕も意地悪くはなかった。
 人間が過去や未来へタイムスリップするという設定のドラマは、初めて見たので非常に印象深かった。もしかして「タイムトンネル」という言葉自体にノスタルジーを感じたことも影響していたのかもしれない。

新しくなったビジュアルのバナー

新しくなったビジュアルのバナー

   

(2018年3月1日)

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