Weps うち明け話 文:清尾 淳

#964

一人歩きしたイメージも利用(真っ赤な3週間・その4)

 暫定監督となった大槻氏には、すぐに「組長」というニックネームが付けられた。

 初戦から続けた、オールバックの髪型に三つ揃いのスーツ、銀縁のメガネ、両手をズボンのポケットに入れ、口を固く結んだ表情…。そのビジュアルから醸し出される雰囲気が「強面(こわもて)」に感じられたため、そのイメージはあっという間に広がった。


 4月2日(月)の大原サッカー場。初練習で見せた大槻監督の立居振る舞いは、「アウトレイジ」のイメージからは遠かった。

少人数でのミニゲームを指導する服装はもちろんジャージ。髪は自然のままで、メガネはないし、その口が閉ざされていることは少ない。全ての選手の動きに目を配って、ほめたり指示を出したりするのに忙しいからだ。当然、身振り手振りがつくから、手がポケットに仕舞われることはあまりない。

「熱血監督」であり、ふだんはTシャツにジーンズのお兄さんだ。


 だが監督交代に際して、チームも自分自身も変化が必要だという思いを強く持った大槻監督は、サッカーの内容はもちろん見た目も大事だと、堀孝史前監督が試合中ジャージ姿だったことから、自分はスーツを選んだ。ヘアースタイルもそれに合わせた。最近、遠くが見にくくなってきた(本人談)こともあり、ふだんは使用しないメガネをかけた。手元の資料を見るときにはレンズを通さずに裸眼で見るから、下から上目遣いのような姿勢になる。それがまた“凄み”を増した。


「決して狙ったわけではなく、イメージが一人歩きしてしまった」と本人も驚いたが、そのスタイルを貫いた。それがファン・サポーターも含めた一体感を作り出すのに、少しでもプラスになるのなら、利用できるものは何でも利用しようと思ったからだ。

 当然、試合中のスーツ姿にもこだわった。

 ドライクリーニングが必要なスーツは、雨で濡れるとそれが乾くまで洗えない。試合は中2日、中3日で続いていく。新幹線移動の際は全員がスーツなので監督だけ違うスーツを着ていては目立つ。そんな背景から雨の予報があった4月15日(日)のホーム清水戦で、やむをえず違うシーズンの公式スーツを着用したこともあった。


 大槻監督にとって、初めてのJリーグトップチーム監督を務めた3週間は、自分の新しいスタイルを見出した期間でもあった。またファン・サポーターにとっては、頼もしい「親分」に見えた時期でもあっただろう。

(2018年6月26日)

  • BACK
 
ページトップへ