Weps うち明け話 文:清尾 淳

#979

勝利への執念ということ

 新しい外国籍MFも内定して、レッズが2019シーズンを戦う態勢が整ったようだ。


 個人的な思いを言い出したらキリがないのは百も勝利だが、加入5年ですっかりレッズ色に染まった李忠成は、これからもレッズに残って、いや残して欲しかった。第一、点が欲しいときに取ってくれる、ACLとリーグ戦を並行して勝っていくのに必要な戦力だと思っていたのだが。

 まあ、僕の希望どおり選手を残していたら、きっと50人、60人になってしまう。いつもシーズンの替わり目に選手が入れ替わるときには多少のモヤモヤが残ってしまうのだが、今季は特にそれが大きかったということだけ記憶に残しておこう。


 オリヴェイラ監督が始動から指揮を執る今季、去年のワールドカップ期間中に静岡で行ったキャンプを思い出すと、開幕前はどんなメニューが待っているのか楽しみでもある。選手には少々、気の毒だが。


 去年は、「勝利への執念」ということについて考えさせられた。

「凄まじいまでの勝利への執念を持て」と選手たちに言ったのは塚本高志元レッズ代表だ。

 勝利のためにまっしぐらになって欲しいのは当たり前だし、これまでも多くの監督は「勝ちたい」「負けたくない」気持ちを全面に出していたと思う。だがオリヴェイラ監督はちょっと違う気がした。


 試合のとき、場合によっては退席処分を受けるほど熱くなることがしばしばあるし、天皇杯準決勝・鹿島戦が終わったあとは、バスを送り出すレッズサポーターに対して、「カストロってこんな感じだったのかも」というようなアジテーションを飛ばしていた。間違いなく熱い指揮官であり、その人が「勝つぞ!」「負けるな!」「戦え!」とハッパを掛けるのは大事なことだが、オリヴェイラ監督はただ熱いだけではない。

 準決勝、決勝の前日、サポーターの熱を選手に伝えたい、と練習を公開する異例の措置を取ったことに代表されるように、勝つために必要なことは何か、と考える発想の範囲が広く、しかもそれを実行するという人でもあるのだ。あの熱い言葉や振る舞いが計算したものとか、意識したパフォーマンスだとは決して思わないが、もしかしてそうだったのか、と思ってしまうほど、うまくハマった。

 レッズの指揮を執るのは初めてだが、レッズとレッズサポーターについては以前からよく知っているという素地があり、実際に中に入って短期間でレッズの特長―勝つための最大の武器は何か、ということを把握したのだろう。


 リーグ最終節のF東京戦で大幅に先発メンバーを替えたのも、天皇杯優勝に向けて全面的に舵を切った所以の措置だったと思うが、そういうメンバーでも、いや、そういうメンバーだから勝って5位に浮上するという結果も生んだ。それは選手の意地と日頃のトレーニングがもたらしたものだろうが、それさえも計算されていたのかな、と思うほどだ。

 勝利への執念、というのは熱さだけではその全部を測れず、勝つためには何が必要か判断する冷静さも必要なのだ、とあらためて感じたシーズンだった。


 リーグ戦のラスト5試合を全部勝つという目標は果たせなかったが、タイトルを獲り2019年のACLにストレートインする、という目標はしっかり果たしたオリヴェイラ監督が、天皇杯という短期間の勝負ではなく、長丁場のリーグ戦で、しかもACLとの並行した戦いを、どんなマネジメントで乗り切っていくのか、楽しみだ。

 そして日本での監督在任中、全てのシーズンでタイトルを獲得した監督、という偉業を今季も継続して欲しいのはもちろんだが、彼がまだ得ていないACLのタイトルに向けて、過去2度その王座に就いているクラブでどういう仕事をするのか。それが最も大きな楽しみだ。

(2019年1月15日)

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