Weps うち明け話 文:清尾 淳

#986

止めるのは連敗だけか

 チームは川崎戦で間違いなく戦う姿勢を見せた。


 同じようにパスをしっかり回してくる札幌や横浜には、プレスをかわされて多くのチャンスを作られたが、川崎戦は回されても回されても次へのアプローチとケアを怠らなかった。「粘り強い」という言葉を使うのが平凡すぎて恥ずかしくなるくらい、ねちっこく守っていた。それも個人が振り回される形ではなく、全員が連動していたから、運動量は多くなっても焦燥感は少なかったかもしれない。ボール保持率は圧倒的に川崎が上回っていたが、途中からは「持たせていた」と言ってもよかった。そして決定機も相手と同じくらいあった。


 後半1点を先制されても守り方は変えなかった。気落ちして緩くなってしまうのは論外だが、川崎は先制した後、余裕を持ったパス回しで、レッズが食い付いて来るのを待っている様子だったから、取り返そうと焦ってしまったら2点目を奪われていた可能性は大だった。札幌戦や横浜戦はそれで傷口を広げてしまったのだが、1点のビハインドで我慢し続けたことで、最後に勝点1が転がり込んだ。いや、もぎ取った。

 同点の場面は、CKからだったが、あの時間がもう少し後だったら、CKを蹴らせてもらえなかったかもしれない。

 もらったようなスローインを、「俺が投げる」とばかりに逆サイドから走ってきた宇賀神。そのロングスローのリバウンドを中に蹴り入れたマウリシオ。そのこぼれを積極的にシュートした荻原。一連の攻撃が相手ゴールに向いていたことで、ギリギリの時間でCKになった。

そして、いったんはね返されたボールを狙った宇賀神のシュートは当たり損なったが、それをつないだのは、本来そこにいるはずのない西川。そしてリバウンドを迷わず蹴り込んだ森脇。打ったコースがどうのこうのは関係ない。とにかく1点を取るんだというみんなの執念が、ボールをネットの中に運んだのだと思う。


 もちろん目指していたのは勝利。引き分けという結果に満足できるはずはない。

 だが、勝点3と同時に求められていた、戦う姿勢、最後まで諦めない気持ち、ゴールを狙う強い闘志などを90分間通して見せてくれた。そこに関しては今季21試合目にして最高だったかもしれない。

 新体制スタートの試合で、5連敗寸前で踏みとどまった。ここから、どうV字回復していくかは、これからの練習次第だが、その緒についたと思わせてくれる川崎戦だった。

 チームは今できること、やるべきことをやったと思う。そんなことは僕が言うまでもない。


 クラブは、それに満足していてはいけない。


 2014年から3年連続リーグ優勝を争い、16年にルヴァンカップで9年ぶりにタイトルを獲ると、17年にACL、18年に天皇杯と3年連続でタイトルを獲得した。

 そして3年連続、それらのタイトルを獲った指揮官が翌年、契約解除になった。

 この2つのことが同時に起こるなんて、尋常であるはずがない。


 5年半かけてレッズに新しいサッカーを植え付け、他チームの多くの選手に「レッズでやりたい」と思わせたミシャ監督の解任は、2度目のACL制覇という快挙によって。

 11年に降格危機からチームを救ったのに続き、17年アジア最終優勝監督にも輝いた堀孝史監督の解任は、大槻毅暫定監督の奮闘と続くオリヴェイラ監督による夏以降の前進、さらにACL出場のために一丸となった天皇杯という短期決戦の戦いによって。

 監督交代をめぐる総括が2度とも曖昧になっているのは事実だ。


 土曜日の試合の後や、日曜日のレッズフェスタで、あるいはレッズ後援会の「法人会員の集い」で、多くのクラブスタッフと握手した。川崎戦についての感想も語りあった。みんなホッとした顔をしていた。その気持ちはわかるが、それで終わってはいけない。

 繰り返さないための作業をしてこなかったから、繰り返してしまったのではないか。


 連敗は止めた。

 連続解任にもストップをかけたい。

(2019年6月3日)

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