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Weps うち明け話 #995

期末試験(2019年12月12日) 

 

 

「今日は勝てると思ったんだけどなあ」

 ベガルタ仙台のクラブスタッフが残念そうにこう言った。

 2011年の東日本大震災からの復旧が少し落ち着いてから、現地に行ったとき取材させてもらった人で、その後Jリーグで対戦するたびに会話をしている。

 なでしこリーグでもお見かけしたことがあるので、女子も担当しているのだろう。12月8日の皇后杯準々決勝では、会場のユアテックスタジアムで運営にあたっていた。仙台のホームゲームではないが、第2試合のマイナビベガルタ仙台レディース(以下、マイナビ)対浦和レッズレディース戦では、ホームの意識になって当然だ。試合後、挨拶した僕の横でしみじみと彼がつぶやいた。

 今季、マイナビとはリーグカップでも同じ組になったので、それまでに4回対戦しており、レッズの3勝1分け。この皇后杯準々決勝で借りを返したいというマイナビの気持ちは非常に強かったに違いない。

 

 ベスト4を懸けた試合の前半、レッズレディースが主導権を取り、何度かチャンスを作ったあとの40分、中盤で柴田華絵が相手の間を縫うようにボールをキープし、前を向いている水谷有希にパス。水谷はすかさず前方に浮き球のパスを送り、前線にいた菅澤優衣香がボレーシュート。ボールはゴールの右上隅に吸い込まれた。僕は、押している流れでの先制点にホッとしたものの心の中では(マイナビ相手に1点だと危ないな)と思っていた。前半、マイナビがレッズのゴール前に迫ったのはメモによると3回。いずれも相手のシュートミス、あるいはシュートに至らず、前半を見る限り完全にレッズの試合、と言ってよかったにもかかわらず。

 

 後半、立ち上がりのビッグチャンスに決められないでいると、案の定、マイナビのパワフルな反撃が始まった。至近距離からのシュートをGKの池田咲紀子が防いだのが2回、うち1回はリバウンドをもう一度シュートされたが、それも池田が抑えた。その後はドリブルでゴールに向かってくる相手に池田が飛び出してプレスを掛け、シュートコースから相手をそらしたものの、ゴール前がGK不在となり、そこを狙われたがカバーに入ったDF(長船加奈か南萌華かは見逃した)がクリア。前半よりはるかに危険なピンチが少なくとも3回はあった。そこで失点しなかったのが今季1年の間に成長した部分だと思う。

 池田は「切り抜けられたのは自分だけではなく、自分が出たところにDFのカバーがあったりした。もし崩れたとしてもみんなで対応できる力はリーグ戦の積み重ねで付いてきたと思う」と語っている。

 

 今季、コンビネーションが格段に良くなり、ボールを保持して攻撃を展開し、ゴールを陥れるチームに変貌した浦和レッズレディースだが、試合の後半、疲れも見えたころ、相手のロングボールで攻められ失点することがあった。中盤での奪い合いではレッズに勝てないから大きく蹴る。レッズは中盤を厚くするためにラインを上げているので、同数か数的不利で守る時間が長くなる。ざっくり言うとそういう状況だ。この日の後半も同様で、仙台の運営スタッフが「勝てると思った」のも不思議はない展開だった。

 森栄次監督はこう語る。

「向こうが放り込んで来ることは予測していた。2枚のセンターバック(長船加奈と南萌華)がどう耐えられるか。人を見ながらスペースを見るという2つのことができるようになってきた」

 相手の放り込みに対して守備ラインを下げるという対応もある。しかし、それをするとレッズの持ち味が消えてしまうので、基本的なシステムは変えずに守り切ることができてきたのはポジティブな要素だ。

 

 もう一つ、この試合で注目していたのは、というより、前夜Jリーグの打ち上げで4軒ハシゴした身体にむち打って仙台まで行った大きな理由は、MDPの今季最終号にレディースの総括を載せるために森監督を取材した際、さらなる強化ポイントとして言われた「ボールを取られた瞬間に高い位置で取り返すことを要求している」ということが、どうなっているか見たいからだ。それは中盤での戦いが多かった前半、見事にできていた。菅澤の先制点もそこから生まれたものだ。森監督の強化策は着々と実になっている。

 

 準決勝の相手は、INAC神戸レオネッサ。今季、リーグ戦の順位ではレッズが上だったが、対戦成績はカップ戦を含め4戦4敗。絶対に借りを返したい相手だ。それだけではない。サッカーの内容が変わり、勝敗も良くなってきたレッズレディースだが、それをもっとはっきりした結果で残すには、日テレ、I神戸の2チームに勝つこと、そしてタイトルを獲ることが必要だ。その2つの課題を同時にこなす機会がやってきた。いわば今季の期末試験だ。

 

 皇后杯の準決勝は12月22日(日)15時からNACK5スタジアム大宮で、決勝は29日(日)14時から同じくNACK5で。

 学校のテストは独力で向かわなければならないが、この試験は外部の手伝いが認められている。リーグ戦を越える多くのファン・サポーターの後押しで合格へ導いて欲しい。

 

(文:清尾 淳)

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