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Weps うち明け話 #996
新強化体制の特徴(2019年12月13日)
違っているかもしれないけれど、この時期にレッズが強化体制についての記者会見をやった記憶がない。もしかして2001年のシーズン後に森孝慈さんがGMに就任したときはやったっけ? と思うが調べようにもクラブのホームページは04年からだし、僕の行動メモも05年からしかない。
12日は、異例の記者会見だったと言えそうだが、土田尚史スポーツダイレクター(SD)と西野努テクニカルダイレクター(TD)の就任が発表され、その上に位置するフットボール本部(これまでの強化本部的なもの)の本部長にずっとクラブの事業畑でやってきた戸苅淳氏が就くことになった。さらに大槻毅監督が来季も継続して指揮を執ることが発表され、さまざまな意見が飛び交っている。そういう意見や疑問に答えるため、ということが一つあるだろう。
また来季の始動が早く予定されていて、その前に会見を開くのが難しいということもあるかもしれない。
加えて希望的観測だが、年内に記者会見を開くという異例のアピールをするほど、今回はクラブが根本的改革を目指している、ということかもしれない。そうであって欲しいものだ。
この日は、会見終了後の囲み取材もないというし、僕はまた今度聞けるからいいや、という時期でもないので、めずらしく質問もした。以下は僕がした質問、それに対する回答と僕の考え。
【3人への質問】
<立花代表あて>
今年5月、オリヴェイラ監督から大槻監督に交代した際に行った取材で、立花さんは「27年間で、監督交代の経緯や選手獲得の成功・失敗の理由・背景などを全部振り返って分析をさせ、クラブの財産として共有する」と言われた。それはどこまで行われたのか。
<土田SDあて>
選手全員に「浦和の責任」を背負ってプレーするよう伝えたと言うが、そのときの選手たちの反応はどうだったのか。また今後それにふさわしくないと思われた選手には契約解除などの措置を取るのか。
契約満了が2人発表されたが、だとすると選手の総数から言って、来季に向けて多くの日本人を移籍で獲得することが難しいのではないか。
<西野SDあて>
選手の力を数値で客観的に評価するというが、現存の選手たちの数値を見て、上位争いができる力はあると思うか。
【それぞれの答え】
<立花代表>
27年間の検証をし、それを踏まえて強化に生かしていくという話をした。クラブ全体で強化の問題だけではなく、浦和レッズでうまくいったこと、いかなかったことなどを抽出をして分析した。そういうことが出てきて、それを見てきた戸苅だったり土田にやってもらおうと思った。
→だったら一度くらい、僕の話も聞いて欲しかったな。僕の見方は浅薄かもしれないけど、情報は多面的な方がいいはず。ただ今回の体制、特に土田SDが強調していることは僕も強く感じていることだったから、僕が言うことは特に新しい意見ではないのかもしれない。
<土田SD>
「浦和の責任」ということを選手に伝えたとき、はっきり言って、その言葉の意味、重さを理解していない選手がいるだろうことは事実。それは自分が現場で感じてきたことでもある。浦和レッズの選手である以上、それを理解してプレーしなくてはいけないと言葉ではわかっていても、理解しきれていない選手もいるだろう。しかし、それは選手だけの問題ではなく、クラブと浦和との距離感があいてきているということもあるだろう。現場はクラブを映す鏡だと思う。浦和の責任というものが、どういうものなのか、理解することを選手には要求するが、それにはクラブがまず浦和をもっと大事にしないといけないのではないかと思っている。
そしてこれからチーム作りを進める上で、そういうことが理解できない選手がいてはいけないクラブだと思う。時間はかかるかもしれないが、常に選手に伝えていきたいことだ。
次の、移籍に関しては、たしかに今は契約が来年にまたがっている選手が多く、選手の出し入れが簡単ではない状況にある。しかし、その中でもポイントを絞って補強は進めていかないといけないから、いまやっている。
→戦えない選手は、試合に出さなければいいという問題ではなく、保有できるA契約の選手は総数が決まっているから、新戦力を獲得しようにもできない。しかし現有戦力では不十分と考えた場合、保有枠をあけるために期限付き移籍で引き受けてくれるクラブを探すか、場合によっては違約金を払っても外に出すしかない。そこまでの決断ができるかどうか。
<西野TD>
今の選手の、個々の能力だけを見れば優勝争いすべきチームだと思っている。しかしチームのパフォーマンスというのは、優秀な選手がいればいいだけではなくて、いろいろな要素が絡んでくる。そういう部分が来季は課題になってくる。
→球際の強さとかスピード(走る速さもプレーの速さも)などでは選手によって、だいぶ差があるように見えるが、それも他の要素が絡んでくるということだろうか。今度、他のクラブの選手との数値の比較で説明して欲しい。その後の関連質問で、FWとセンターバックを補強ポイントとして挙げたが、それは同感だ。
今日のうちには記者会見の全文がアップされるだろう。僕が書いた「答え」は要約なので一字一句同じではない。悪しからず。
さて、会見に出たメディアのうち、何人が「来年のレッズは面白そうだ」と感じただろうか。
戸苅本部長は、元レッズの選手(プロではなかったが)で頭脳明晰、弁舌さわやかで営業手腕は試され済みだが、チーム強化は未経験。
土田SDは、チームの現場に長くいて、長所も短所も知り尽くしているし「浦和イズム」的なものを大事にしているが、レッズの外に出たことがなく、世界が狭いかもしれない。チーム強化に関しても、こういう立場は未経験。
西野TDは、クラブマネジメントや、スポーツビジネスの仕事に関しては専門と言ってもいいし、選手を引退してから、そういうものを身につけた能力と自分で道を切り拓いてきた力は大したものだが、サッカークラブの強化に関しては経験が少ないだろう。
この体制で大丈夫なのか、という懸念が出て当然だ。
だが、これでスタートしようというときにケチをつける気はない。この3人の体制のどこに期待をするか、と聞かれたら僕は「レッズの失敗を見てきたこと」と答えるだろう。
戸苅氏と土田氏は92年から、西野氏は93年からレッズに所属していた。93年~94年の最下位時代も、95年の「大宮伝説」も、99年の残留争いと降格も、00年の昇格への苦しみも、全て知っている。西野氏は02年からの「優勝絡み」時代には引退していたが、他の2人はそれも知っている。土田氏は、03年からの「タイトル獲得」がなぜ08年から途切れてしまったのか、その理由についての考えもあるはずだ。また戸苅氏は、強化担当ではないだけに隔靴掻痒の思いをしながら見ていた時期もあるだろう。
レッズとはまるで違う環境で成功してきた強化の達人みたいな人を呼ぶのも一策だが、レッズの失敗を肌で体験してきた人に、その反省を元にして今度は成功するようにやってくれ、と任せるのも悪くはない策だと思う。特に、今は。一番大事なのは初心を忘れさせないこと、易きに流れさせないことだ。
よく新内閣が発足したときに、その特徴を表わした「○○内閣」という名前をメディアが付ける。昨日、3人が並んで立っているところを見て「失敗は成功のもと内閣」という言葉が浮かんだ。内閣ではないけど。
(文:清尾 淳)