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Weps うち明け話 #1002

彼に期待する理由~伊藤涼太郎(2020年1月24日) 

 

 伊藤涼太郎が浦和レッズに新加入したのは2016年。リーグ戦4試合、ACL1試合、ルヴァンカップ1試合にベンチ入りし、出場は4月29日のJリーグ名古屋戦1試合のみ。4-1という余裕のあるスコアの後半28分、柏木に代わってボランチの位置で出場した。約20分間の短い時間だったが、ハーフウェイライン付近から左ワイドへサイドチェンジのパスを出す機会が2度あった。1度目はわずかに関根と合わなかったが、2度目は関根の左クロスにつながり、もし李忠成のボレーシュートが決まっていたら、5点目の起点となっていたところだった。

 

 プロデビュー戦としては十分合格点だと思ったが、その後Jリーグでの出場機会はなく、翌17年にルヴァンカップ準々決勝第1戦で先発出場し後半18分に交代。そのルヴァン杯でチームが敗退したあと、水戸ホーリーホックに期限付き移籍した。数回あったベンチ入りのときに他にも出番があったら、どうだったのだろう、と少し残念な気もしたが、J2で出場機会を得るのも大事なことだし、伊藤のプレーは必ず通用すると思っていた。

 

 そして予想どおり伊藤は水戸で実績を作った。移籍した年は9月半ばからだったので6試合の出場にとどまったが、翌18年はJ2リーグ戦42試合中34試合に出場し9得点。これはチーム得点王のジェフェルソン・バイアーノ(11得点)に次ぐ得点数だった。19年は当然、レッズに復帰するだろうと思っていたが、期限付き移籍のまま大分に横滑りした。いや、大分はJ1なのだから横滑りではない(しかも19年はレッズに対して2戦2だ)。

 大分での伊藤はリーグ戦4試合と、水戸時代ほどは出場機会がなかったが、ルヴァンカップでは4試合1得点、天皇杯では3試合2得点と、レッズでの1年9か月を上回る実績を積んだ。

 

 今年1月9日、新加入記者会見で伊藤は「浦和の試合は全部見た」と語った。「全部」と断言するところにレッズへの思いの強さを感じた。正直なところ、同じJ1で出場数が多かった大分の方がレッズより居心地が良いと思っているのではなかろうか、と心配していたのだが、それは自分の邪推だったと僕は恥じた。

 ただし気持ちだけでは活躍できない。2年3か月の武者修行でプレーはどうなっているだろうか、と沖縄キャンプで注目していた。いくつか、気になる部分はあったが、僕が思う伊藤の最大の持ち味、視野の広さと正確なロングキックには磨きがかかっていた。紅白戦でもそうだったが、22日に行われた沖縄SVとの練習試合でそれは発揮された。3本目に右サイドハーフで出場した伊藤は3分、右サイドでボールを受け取るとすかさず左の汰木にサイドチェンジ。汰木の元にピタリと収まった。キックの正確さはもちろんだが、サイドチェンジはスピードが命。ボールを受けてから出しどころを探していたのでは、相手に読まれてしまい、パスが通ってもその後の展開に困ることになるし下手をするとインターセプトされる。ボールをもらう前からパスコースを見つける視野の広さがあり、どこへ出すか素早い判断ができてこそ、正確なキックも生きる。このときは、汰木が少し持ち出してファーにクロスを送り、オーバラップしていた右サイドバックの橋岡が頭で合わせたがやや当たりが弱くゴールにはならなかったが、他にも前線の武富へパスを出したときの球離れの良さなど「らしい」プレーが見られ、伊藤涼太郎への期待値は高まった。

 

 それと、彼のプレーとは直接関係のないことだが、2つの理由で頑張って欲しい。

 一つは、これまで期限付き移籍から復帰した選手がレッズで中心選手として活躍できていないこと。その最初の事例になってくれるよう、今季は多くの試合に出て自分の武器でチームに貢献して欲しい。まだ足りない部分はそれと並行して伸ばしていけばいいと思う。

 そしてもう一つの理由。それは、かつて選手としてレッズに大きく貢献してくれた山田暢久の、スタッフとしての最初の成果が伊藤の獲得だったからだ。

 

(文:清尾 淳)

 

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