コラム

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「県営スタジアムに屋根を」署名への回答
清尾 淳
 


 ご要望のありました県営サッカースタジアム(仮称)の「サイドスタンドの屋根掛け」につきましては、サッカーファンがより快適に質の高い試合を観戦できる観点からのご提言であると受け止めております。
 ご要望につきましては、天然芝やスタジアム本体への影響などについて、調査を実施したところ、様々な課題があることが分かりましたが、より良いピッチとするための芝の成育実験や屋根の風洞実験などを行うとともに、将来、屋根掛け工事に手戻りが生じないよう現時点で可能な限りの措置を講じておくこととしております。なにとぞ、ご理解をいただきたいと存じます。
平成11年8月17日 埼玉県住宅都市部スタジアム建設局

 レッズのMDP147号にも載せたけれど、埼玉県からレッズサポーター有志に、上記のような「回答書」が正式に届いた。レッズサポーターの有志が、建設中の埼玉県営スタジアムのゴール裏に屋根をつけてほしい、という署名13,071人分を昨年9月30日に土屋義彦埼玉県知事に提出した。それに対する回答である(前後のあいさつ的な部分は省略してある)。
 さて、この回答書を読んで、すぐに意味のわかる人は何人いるだろうか。恥ずかしいけど、僕はわからなかった。実は、この回答書の後に、当のサポーターたちからの下記のようなコメントがついていた。

 つまり結論として、『屋根はつかない』ということです。この回答については、スタジアム完成後、サポーター1人1人が自分たちの目で確かめ、判断することになると思います。
 ワールドカップ開催まで、あと2年数カ月、私たちこれからも常に前を向いて2002年を迎えたいと考えています。
(サポーター有志一同)

 本人たちが書いてきたのだから、「そうか、この回答書はこういう意味なのか」と、そのままMDPに載せかけた。ところが編集の仕事を全部終えて、一杯やりおえ、さてもう1軒…というときに当のサポーターたちから連絡があった。 「屋根はつかない」という部分に、「当面は」と入れてほしい、というのだ。そこまで言われて、もう一度よく読んで意味がわかった。

 「将来、屋根掛け工事に手戻りが生じないよう現時点で可能な限りの措置を講じておくこととしております」というのは、「屋根をつけることになっても、工事に支障がないようにしておきます」ということなのだ。

 だから「屋根はつかない」というのが結論だと言ってしまうと、いささか早まったことになる。「当面は屋根はつかない」と言うのも説明不足である。

 ところがMDPの作業上、もう訂正はできない段階に来ていた。できるのは、一部を削ること、多少移動すること、ぐらいである。そんな長い解説文はもちろん、「当面は」と挿入することさえできない。それで仕方なく「つまり結論として、『屋根はつかない』ということです」という、一文を全部削った。

 かくしてMDPには、あの難解な回答文書の後に「この回答については、スタジアム完成後、サポーター1人1人が自分たちの目で確かめ、判断することになると思います」と続いているのだ。読んだ人は「何だよ、それは。結局どういうことなんだよ」とブーイングだったのではないか。
 僕にも責任はある。ふつう意味が通らない投稿は載せないのだが、この場合は「高尚すぎて」意味がわからず、回答書をもらったサポーターからの解説付きだったから、安心して載せかけてしまった。

 だけど埼玉県も、もっとわかりやすい文章にしてくれても、いいのではないか。概してお役所の文書って、「。(マル)」が少ない。昔の野坂昭如の文みたいである。今回の文も147文字、マルなしで続いている。相手に理解してもらおうと思うなら、こういうふうにしたほうが良いのではないか。恐れ多いけど。

 「ご要望につきましては、(屋根を付けることによって生じる)天然芝やスタジアム本体への影響などについて、調査を実施したところ、様々な課題があることが分かりました。しかし、屋根を付けてもより良いピッチとするための芝の成育実験や屋根の風洞実験などを行ってまいります。それと同時に、将来、屋根を掛けることになったときに、その工事に手戻り(この言葉がよくわからない)が生じないよう現時点で可能な限りの措置を講じておくこととしております。今のところは、これぐらいでご理解ください」てなところだろうか。

 MDPの147号を読んで、頭をひねってしまった人たち、どうもすみません。

(1999年8月23日)