さいたまと
ワールドカップ





COLUMN●コラム


#043
批判することが目的ではないはずだけど


 MDP編集室に来るお便りで、よくこういうスタイルのものがある。

 「一説によるとレッズは、○○○○○という話です。これが真実ならば×××××ではないですか」。

 「一説によると」の部分は「聞いた話では」「推測するに」などいろいろな表現があるが、ようするに真偽のほどが定かでないことを挙げて、もしそうならば×××と、レッズを批判する論法だ。

 僕が聞いたこともないことを前提にされてもなあ、と困ることが多いが、これもコミュニケーション不足が原因の一つだろう。

 もちろんMDPの誌上では、そういうことを解消するように努めてきた。また僕が直接返事をすることもある。しょっちゅう顔を合わせているサポーターなら「清尾さん、こういうことを聞いたけど本当ですか」と聞いてくる。そういうパイプがあれば何でもないことでも、多くのサポーターにとっては疑問をすぐに解消する手段が少ない。食べた炭水化物が燃やされないと脂肪に変化して蓄積されるように、疑問は不満に変わって溜まっていく。脂肪は、いざというときにエネルギーとして使われるが、不満はそうはいかない。

 風評、流言飛語の類もこの際、全部出せばいい。発生源が何であろうと、疑問をそのままにしておくのは、良いことではない。サポーターの力はレッズを押し上げるために使われるべきで、噂話を基にした不満でクラブを批判するのに使われるのはもったいない。とりあえず言いたいことは全部言おう。その上で、これからどう戦うかを決めよう。

 ただし、こういうのはどうかと思う。

 先日のテレビ埼玉の「大討論会」に同席していて、サポーターからいろんな話が出たときに、こういう発言があった。

 「ア・デモス前監督は、サテライトの選手を自分で見ないで、コーチの言うことを鵜呑みにしていた。コーチは自分の好き嫌いだけで、選手をトップに上げるかどうか決めていた」という趣旨のものだ。その内容の真偽はともかく、証拠としてそのサポーターは「デモス氏はサテライトのゲームに一度も行っていない」と述べていた。

 僕も、デモスはサテライトをあまり重視していなかったという気がする。短時間で結果を出さなくてはならないのに、選手を育てている余裕はない、というところだろう。

 しかしデモスがサテライトのゲームに一度も居なかったというのは、明らかに間違いだ。彼が監督に就任してから3回サテライトの試合があったが、そのうちの2回、8月9日の市原戦(舞浜)と9月19日の鹿島戦(東松山)には、デモスは間違いなく来ていた。福永をリーグ戦で使ったのは、サテの市原戦の後の柏戦(8月14日)からだったし、ユースの千島をトップに登録したのも、サテの鹿島戦で彼の動きを見てからだった。選手をサテライトの試合でチェックすることだけはしていたのだと思う。8月29日の平塚戦(伊豆)には確かに行っていなかった。

 番組が終わってから僕はその人に話しかけた。

 「ご意見に文句を言う気はありませんが、デモスはサテの試合に3回のうち2回は行ってます」。
 「でも伊豆(平塚戦)は行ってないですよね」。
 「ええ、伊豆は行ってないです」。
 「それにサテの練習には行ってないですよね」。
 「え?は、はあ…」。

 デモスはサテライトに「3試合中、2試合には行った」のに「1度も行っていない」というのは大きな間違いだ。それを指摘されて、間違いを認めようともしないで、こんなふうに片づけたんでは話にならない。

 ある意見を強く言うために、事実と違うことを根拠にしては、主張そのものの意味がなくなる。「コーチが好き嫌いで…」というのは、重大な問題だ。だからこそ、その根拠は正確でなくてはならないが、この場合は、デモスがサテライトゲームに行っていないというのが、意見の根拠の一つなのだから、この事実誤認は些細なことではない。

 重箱の隅をつつくのは面白くないが、隅に穴が開いている重箱は使えない。噂や推測を基にした話が出てくるのはいいが、前提が間違っているときは、素直に認めてほしい。でないと、レッズを良くすることが目的なのか、今のクラブの悪口を言うことが目的なのかわからなくなってしまう。

(2000年1月4日)