さいたまと
ワールドカップ





COLUMN●コラム


#114
中学生の証明

 僕は子どものころ、実際の年齢より上に見られたくてしょうがなかった。高校生のころ演劇の裏方をやっていて、どこかの学校の先生に「えっ、この人高校生?!」と言われたのが快感だった。女の子でも、私服を着るときはなるべく大人に見えるようにしていた友達がいた。今は逆なんだろうなあ。


 「もしもし。○○さん(チーム名)ですか。チケットのことでちょっとお聞きしたいんですが」
 「はい、担当です」
 若い(と思われる)女性だった。
 「先日のレッズ戦で、中学生の息子が当日券を窓口で買おうとしたら、証明書を求められたというんですが、そちらではそういう対応をされているんですか?」
 「ちょっとお待ちください。運営の担当者に聞いてこちらからお電話します」
 僕の携帯番号を伝えると、1~2分して電話があった。
 「お待たせしました。やはり体格の良いお子さんには証明書の提示をお願いしているようです。映画館などでもそうしていると思います。」
 「なるほど。でも映画館の切符売り場には証明書がいる旨、書かれていますね。そちらの当日券売り場の窓口にはそういうことが、書かれているんですか?」
 「いえ、書いてないと思います」
 「サッカー観戦に行く中学生が生徒手帳を持っていると思いますか?しかも、これまでほかの試合で当日券を買って、証明書を見せろと言われたことはないんですよ。念のためレッズの担当者にも聞いてみましたが、窓口では証明書を提示させていない、と言われました」
 「実際には委託している会社の担当者の判断になるんですが」
 「たとえば兄貴が弟の分を買ったり、親が子どもの分を買うときに、証明書が必要なんですか?」
 「いえ、それは必要ないです」
 「ローソンで前売りを買うときには証明書の見せようがないじゃないですか。そのためにチケットをもぎるときにチェックするんじゃないんですか?」
 「そうです。チケットをもぎるときに、大人に見える方には生年月日や生まれ年の干支を伺ったりしています」
 「だったら何も窓口で証明書を求める必要はないんじゃないですか。息子はキックオフまでに時間がなかったし、後ろに並んでいる人がいたんで、争わないで大人用を買ったんですが、そちらの当日券は大人のほうが小中より1000円高いじゃないですか。お金を持っていたから良かったようなものの、普通、中学生が1000円すぐに余分に払えますか?もしかしたら試合を見られなかったかもしれないということですよね」
 「すみません、少々、お待ちください」
 隣の誰かと少し言葉をかわしたようだ。すぐにまた電話に出たが、語調は明らかに強くなり、早口になっていた。
 「それではお金をお返しします。それでよろしいですか」
 「は、はあ…」
 「買われたチケットの半券とお子さんの身分証明書をコピーして送ってください。現金書留か銀行振込でお支払いしますので。それでよろしいで…」
 「あの、もしもし」
 「はい」
 「隣でどなたか、うるさいから金返すと返事しとけ、とか言ってるでしょ(笑い)」
 「いえ、それは…」
 「でも、急にあなたの言葉づかいが変わりましたよ。あのね、私はお金を返してほしいとは一言も言っていないです。実は私は報道関係のもので、息子の話は本当ですが、こういう場合、Jリーグのクラブはどういう対応をするのか知りたくて電話したんです。初めから私の仕事を言ったんじゃ、対応が違ったでしょう?」
 「はあ…」
 「体格の良い人が小中のチケットを持っていたら、本当に中学生かどうか確かめるのは当然です。でもチケットを売る窓口で証明書を求めるのは無理があると思いますし、証明書がなかったら大人のチケットを買わせるというのは行き過ぎじゃないですか。それと、私が食い下がったら、そちらはお金を返して黙らせておけ、という態度に変わりました。それは良くないと思います」
 「そんなつもりではありませんでしたが」
 「聞いているこちらは、そういう感じに受け取れたということです」
 「申し訳ありませんでした」
 「それだけ分かっていただければ結構です。それでは失礼します」
 「あの、お金はどうしましょうか」
 「いえ結構ですよ。それでは」


 別に覆面取材をするつもりはなかったのだが、Jリーグの各クラブに、このことについて考えてもらいたくて書いた(と言ってもこのコラムを読むのはレッズ関係者とJリーグの藤口理事くらいだろうが)。
 取材のための作り話だと思われるのが嫌だから、念のため息子が買ったチケットの半券は取ってある。誰かに半券をもらうこともできるのだから、あまり意味がないけどね。


 チケット「一般」に対して「小中」は特別に安くしているのだから、証明義務は客の側にあるのだろうが、あまり厳しく求めると客足が遠のくことになる。男の子ならまだしも、女の子で背が高いことにコンプレックスを持っていた場合は、疑われること自体が不快だろう。小中のチケットで入ろうとする言語道断な大人がいるのも事実だが…。


 電話を切ってから考えたが、件(くだん)のクラブが本当に窓口の対応が間違いだったと思っているなら、余分に得たことになる1000円は僕がいらないと言っても返却すべきだろう。僕が担当者だったら意地でも返す。携帯番号は知っているはずなのに、何も言ってこないな。

(2001年10月8日)