さいたまと
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COLUMN●コラム


#123
福田正博

 11月24日、今季最終節のグランパス戦。試合前にスタンドを回って複数のサポーターに言われた。
 「清尾さん。9番、今日で終わりですか?」


 こっちが聞きたいよ。


 で終わってはコラムにならない。福田正博選手の去就に関しては多くのサポーターが気になるところだろうから、僕の知っていること、思ったことを書いておこう。


 まず福田本人は、今年で現役を終えるつもりはなさそうだ。いや、いまのところ「ない」と言っておこう。特に最近のコンディションは上々のようだから、それが精神的にも良い裏付けになっているのかもしれない。
 そして一番大事なFWとして自信、これを失っていないことが現役を続行する最大の武器だろう。それが「過信」でないことをグランパス戦で証明したし。


 ただし浦和レッズの選手として現役を続けるかどうかは未定だろう。つまり他のチームに移籍する可能性もある、ということだ。では、その理由は?
 初めに言っておきたいのは、彼は、「ブラジル人FWが2人いたんじゃ自分の出番はなかなか回ってこないから、もっと出場しやすいチームに移籍したい」などとは思っていない。
 たしかに今季は、先発をはずれることが多く、交代も一番手ではなかった。最終節こそエメルソンの欠場でトゥットが先発。福田がまず交代で出たが、それでも先発はしなかった。ちょっと考えれば、3番手、4番手のFWでいるのを嫌って移籍するのもやむなし、と思えるかもしれない。
 違う。福田正博は、永井はもちろんトゥットやエメルソンとの出場争いにも勝つ自信があるはずだ。コンディションさえ維持していけば1シーズン先発を通す自信だってあるに違いない。決して「俺より上のFWが2人も3人もいたんじゃ出られないから、もっとFWの力が弱いところにいきたい」などという消極的な考えはしていないだろう。それだけの自信がなければ、34歳(もうすぐ35歳)で「もう1年」などとは思えない。


 チームを替わる可能性もあるというのは、一つには監督のサッカーが自分に合うかどうか、その監督を選ぶフロントが自分をどう評価しているか、そしてレッズにおける自分の位置がリザーブとして固定化しているのなら、その環境を変えるためにチームを移りたい、ということだろう。
 まあ現実には、得点力のあるFWには不自由していないチームが福田を取ることはあまり考えられないから、もし福田が移籍するとしたら、日本人FWの人材に不足しているところ、あるいは観客増を図りたいところだろう。だけど、それは福田が「ここなら俺でも出られる」などと考えて、お山の大将になりに行く訳では決してない、ということだ。


 なんだか福田が移籍する地ならしのために書いているようだな。サポーターは言う。
 「僕らは福ちゃんにはレッズに残ってほしいし、レッズでユニフォームを脱いでほしいんですよ」


 もちろん僕だってそうだ。しかし我々の勝手な考えで、福田に「また1年間あまり出られないかもしれないけど、レッズに残ってよ」とは言えない。決めるのはあくまで本人だから。
 だけどクラブにはお願いしたい。契約更改の時期だが、福田正博という男に対する処遇を誤らないでほしい。彼がこれまでレッズに貢献してきた事柄の大きさ、現在も果たしている役割、今後もチームに残ることで得るプラス。それを総合的に検討して、彼に対する来季のクラブの姿勢を決めてほしい。
 新しい監督、特に外国人監督は福田の歴史を実際には知らないから、目の前の本人でしか評価しない。だから福田のことを「以前は得点王も取ったし、サポーターに人気もある。しかし今はケガも多いし、たまに出場させても結果を出せない」と思っても仕方がない。いや、およそプロの監督たるもの、福田の得点感覚の鋭敏さは感じ取っているだろうが、自分の結果を何より求められる監督としては、いま点を取っているFWを使いたくなるのだろう。
 しかしわれわれは知っている。彼が大事な試合でこそ結果を出してきたことを。だからこそ彼がピッチに立っただけでスタジアムのムードは一変する。何かをやってくれる期待感でスタンドがあふれることを。それは新人FWに抱くような未知の期待感ではない。実際にこの目で見てきた、体で味わってきた経験に基づく確信に近いものがある。
 11月17日、C大阪戦の延長前半。永井に代わって福田が登場してから、僕はカメラで福田しか追っていなかった。それは感傷的なものではなく、「最近のプレー写真がないから」という現実的な理由と、「最もVゴールの可能性が高い選手だから」という読みからだった。13分。ファインダーの中の福田の目が光った。顔は右を向き、体は左右、後ろに動き、タイミングを取っている。右から来るクロスを狙っているに違いない。飛び出した。シュート!僕はカメラを目からはずした。ボールは福田のそばをバウンドし、DFにクリアされた。
 Vゴールにはならなかった。シュートできなかったのが、運の悪さなのか、福田の技術が落ちているのか、それはわからない。しかしこのワンプレーを見て、福田をずっと狙っていた自分は間違っていないと思った。同時に96年5月4日のエスパルス戦で彼がVゴールを挙げたときの動きと同じだと思った。あのときも僕はずっと狙っていたのだ(イヤーブック96の福田のページの最初にある連続写真は僕の写真。数少ない自慢の成果)。
 毎試合、あるいは90分、このプレーができるかどうかはわからない。しかし途中出場して、たった5分で流れに入って、クロスにタイミングを合わせられる選手に「引退」は早いと思った。


 歴史の浅いサポーターが「福田はもう駄目でしょう」と言うのも仕方がない。古くからのサポーターでも「悲しいけどもう無理かな」と思うのもやむを得ない。
 しかし僕は思う。福田正博は自分で自信を失わない限りやれる、と。本当に限界が来たら自分で悟るはずだ。その彼が現役続行の意思を示しているのだから絶対にやれる。
 たとえクラブから契約延長の申し入れがあっても、先に述べたような理由で福田がそれを受けるかどうかはわからない。しかしクラブの方からはあくまで現役でチームに残るよう要請すべきだ。もちろん彼のプライドを尊重した条件で。


 先のサポーターは言った。
 「じゃあ、僕らはこうするしかないんですか。福ちゃんが今日出たら、僕たちがどんなに福田正博を必要としているかを応援で示すしかないんですか。場内を一周してきたら、来年も一緒に戦ってくれ、と大声で叫ぶしかないんですか」


 その思いは、本人にもクラブにも届いたと信じたい。
 念を押すようだが最後に言っておく。福田正博を、長年の功労にこたえて退職金代わりに来年もチームに残せと言っているのではない。ここ一番で最も信頼できる重要な戦力として、そして多くのサポーターの求心力として、レッズに欠かせない選手だ、と言っているのだ。

(2001年11月26日)