さいたまと
ワールドカップ


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COLUMN●コラム


#154
祭りの初日

 僕はお祭り好きなんだろうと思っている。しかし本当の意味の「お祭り好き」を知らないから、言い切るのに勇気がいる。というのは、「他人の町の祭り」が好きじゃないからだ。
 20年前、浦和に越してきたころ、近所で夏祭があった。家の前を子どもの引っ張る山車が通っていった。ちょうど出掛けようとしていた僕は、ドアを開けるのをやめてしばらく閉じこもっていた。自分と関係ない祭りで他人が盛り上がっているのを見たくないからだ。

 今でも変わらないところがある。浦和には7月に「浦和祭り」があって、各地区ごとの神輿が出る。ちょうど街を歩いているときに神輿に出くわすことも多いが、はっきり言って鬱陶しい(自分じゃ書けんな、こんな字)だけだ。エラそうに仕切っているヤツを見ると腹が立つ。
 しかし、たまには知っているヤツが、粋な出で立ちで神輿をかついでいる。それを見て、うらやましい、と思うのだから、やっぱり僕はお祭り好きなのかもしれない。僕の住んでいる松木というところは浦和の中でも東のはずれだから、「浦和祭り」には神輿を出さない(その代わり埼スタまで自転車で15分だぞ!)。それどころか、祭りそのものがない。
 「浦和祭り」ではときどき、「あれ?なんでお前がこの神輿担いでるの?」という光景にぶつかるから、知り合いの町内に「助っ人」に行くことは可能なのだと思う。でも、なかなかそこまでの勇気が出ない。あるいは「助っ人」が嫌なのか…。

 祭りとなると、そのド真ん中にいないと面白くない。
 何も地域の祭りだけではない。高校の学園祭、大学祭。いろいろなイベント。Jリーグもある意味「祭り」の一種だ。僕らは「浦和レッズ」という神輿をかついでいる。その神輿を一番にするためには寝食を忘れる。さしずめ僕は、「祭りに参加しましょう。こんなに楽しいですよ。ほかの町の神輿に負けないよう頑張りましょう」という回覧板を作っている役だろうか。
 この「寝食を忘れる」ところがポイントだ。神輿を日本一にするのが大きな目的だが、その過程で自分が何もかも忘れて損得抜きでそれに没頭する。それが大きな喜びになっているのが、僕たちにとっての浦和レッズではなかろうか。だって、それが祭りの一番の面白さだと思うから。
 完成された神輿、準備された行程、休憩所があって、「ハイ、担いでください」と言われても僕は満足できない。その祭りのために打合せをし、作業をし、準備をする。近くなると家にも帰らず、当日は徹夜明け、という不健康さがたまらなく好きだ。大勢の人と「同じ釜の飯を食って」仲良くなるのももちろん大好きだ。
 だから祭りが好きだと言っても、「助っ人」「当日参加」じゃ不完全燃焼になってしまうのだ。それでも入っていけば、それなりに楽しんでしまうのだが…。

 2002年ワールドカップに自分がどう関わるのか、ずっと考えていた。ちょっと見には、取材で関わると思われそうだが、僕の仕事は浦和レッズであって、サッカーそのものではない。日本代表にレッズから数人入っていれば、また状況が違ったかもしれないが、その可能性はかなり前から極めて低かった。
 埼玉新聞社の社員と言っても僕は編集局の記者ではないから、仕事はない。もちろん協力はする気でいたが、働いているステージが違うせいか、僕のところにワールドカップの取材が回ってくることはなさそうだった。取材対象が「サッカー」だけでなく、「行政」や「イベント」や「地域」や「サポーター」まで広がっていっても、結局応援の要請は何もなかった。

 じゃあJAWOCで働くか、と言っても、あそこは自分で門を叩くところではなく、「派遣」や「出向」で行くところのようだ。だいいち1ヵ月前までレッズの試合に追われていて、そんな仕事はできない。
 僕が2002FIFAワールドカップTM(最近、こう書かないといけないような気がしてきた)に、JAWOC埼玉のボランティアとして参加しているのは、半ば当然の成り行きだったのだ。

 ナビスコカップが終わってから、会社にたまった代休をまとめて申請して、ほとんど埼スタに詰めている。特に5月28日からは毎日「出勤」している。最近、第二産業道路から西には行っていない(笑)。
 ワールドカップというバカでかい祭りに「取材者」としてでなく「主催者」の端くれとして関われたのをうれしく思っているし、「助っ人」や「当日参加」ではなく、事前の準備にも何とか滑り込みで間に合ったようだ。
 6月2日は、2002FIFAワールドカップTMとしては3日目だが、僕にとっては祭りの初日だ。試合を「観戦」することはできないが、大会に「参戦」している気は十分した。試合前のスタジアムの周りの雰囲気もたっぷり味わった。試合は後でテレビで見ても半分楽しめるが、「参戦」は絶対に追体験できない。生観戦した人の「2倍」とは言わないが「1.5倍」くらい楽しんだと思う。

 祭りの本番はあと3回。ボランティアにも守秘義務があるので詳しくは書けないが、初日は予想どおりの大小トラブルもあった。4日、6日と少しずつ改善していって、26日の準決勝には最高のものにすればいいと思っている。人間のやることにトラブルはつきもの。100パーセントスムーズに運営される祭りなんて考えられない。ただし気分は120パーセント楽しませてもらうけどね。

 それにしてもチケットがそんなに余ってるなら、今からでも入手してほかの町の祭りも見に行こうかな。

(2002年6月3日)