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COLUMN●コラム


#200
泣く権利


 数人で酒を飲むとき、誰かが先に酔いつぶれてしまうと、残りの人間はたとえ酒癖の良くない人でも酔いつぶれない、という「法則」がある。
 昨日、僕がしたことはそれに近いものだったかもしれない。


 天皇杯初戦敗退の後開いた「レッズサポーター望年会」で、最後にあいさつしたあと不覚にも大泣きしてしまった。あの試合で今年が終わったと思うと、悔しくて悔しくて、急に涙があふれてきた。
 望年会に参加した180人以上のサポーターは、みんな同じ気持ちだっただろう。だが主催の中心である僕がみんなの前でオイオイ泣いてしまったから、あとの人は泣けなかったのではないかと思うと申し訳ない気持ちだ。


 今年は、ステージ中8連勝、カップ戦も含めれば11試合負けなしというチームの新記録を作った。またナビスコカップで4強のカベを破って決勝進出という、かつてない高さまで登った。
 一方、カップ戦も含めれば8連敗、うち6試合連続無得点という屈辱も味わった。駒場での最終戦は負けないというジンクスも砕かれた。危ないと言われながら勝ってきた天皇杯の初戦で初めて負けた。
 今年は来季に強豪チームになるための準備のシーズンだった。そう思えば、この10年間のレッズで初めてという事象が、良いことも悪いことも全部起こってしまったことがうなずける。これまでのレッズに区切りをつけ、古い衣を脱ぎ新しい物を身につけなければならない。幼虫が成虫になる前の「サナギ」という過程。サナギはじっとしているが、中では大きな変化が起こっている。レッズの場合は勝敗の乱高下という形で成虫になる準備をした。そう思う。そう思わなければいられない。本当にこれまでのレッズとはまったく違うチームに変貌するしかないのだ。
 10年間のレッズに別れを告げる。そう、福田正博も来年はいないのだった。それでもレッズは強くならなければならない。僕も含めた関係者は、強くなるためのあらゆる努力をしなければならない。その努力の成果を受け取るシーズンが2003年だ。
 そう思ってサポーター望年会に入っていった。開会のあいさつでも、そう言った。そうやって自分を納得させて2時間半楽しむつもりだった。実際に楽しんだ。
 しかし、最後に泣いてしまった。昨日の試合で誰が退場になったとか、誰が決められなかったとか、誰がパスミスを連発したとか、そんなことはどうでも良かった。それはクラブと監督が考えることだ。
 ただ悔しかったのだ。泣くほど悔しかった。降格した年も望年会では泣かなかったのに、四十男が、恥ずかしい限りだ。


 レッズに関する事で、僕はサポーターの前で泣いてはいけないと思っている。うれし泣きなら許されるが、試合に負けて悔しい、悲しいという理由で泣くのは許されないと思っている。なぜなら僕はクラブのスタッフではないが、サポーターから見ればクラブ寄り、チーム寄りに立っている人間だからだ。負けた怒り、悲しみをクラブにぶつけるのはサポーターの側であり、クラブ側の人間が泣いてしまうのは反則だ。
 「泣きたいのはこっちだ。お前には俺たちの前で泣く権利なんかない!」
 まったく、その通りだ。


 懺悔するのがテーマではない。
 犬飼代表始めこのコラムを読んでいるクラブのスタッフに一言。
 天皇杯初戦敗退という前代未聞の事態に一番驚き、悔しがっているのはあなた方だろう。それは身近にいてよく知っている。でも、あなた方のすべきことはサポーターと一緒に怒り、悔しがることではなくて、サポーターの怒りと悲しさをしっかり受け止め、来季に向けて今からスタートすることだ。
 サポーターは怒りと悲しみを味わいながら、それでも来季を信じている。オフト監督が来季の2ndステージには優勝争いをする、と言ったから。フロントはそのために日本代表クラスの選手を、よそのクラブから引き抜いてきても補強すると宣言したから。多くのサポーターはその言葉を信じているのだ。その期待を上回るほどの大型補強を、革命的な変化を我々に見せてほしい。
 来季、タイトルを取ったとき。そのときこそサポーターの前で思う存分泣いてくれ。


(2002年12月16日)

<追伸>
 このコラムを書いた後、大原に行ったら中村修三CMに会った。顔に疲れは見えたが落ち込んではいなかった。夕べはどうだったか知らない。しかし、もう切り替えて忙しそうに動いていた。帰り際に「頑張ってよ」と声をかけると「うん。これから俺たちがやらなきゃ」と忙しそうに車に乗り込んだ。彼の腕の見せどころだ。