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COLUMN●コラム


#215
イメージ


 「じゃ、今日はこれで」
 「あれ、何言ってんの。冗談でしょ。おーい、お酒もう2本」
 「あ、今日はだめなんだ。早く帰んないと」
 「早くって何時?」
 「何時って決めてないけど、9時ごろには帰らないと」
 「じゃ、まだ1時間もあるじゃない。飲も飲も」
 「いや、9時に出るんじゃなくて9時に家に帰ろうかなと思ってたんだけど…、まあいいか」
 「そうそう。清尾さんがこんなに早く帰るなんてヘンでしょ」
 「まあね」
 「これからK子ちゃんも来るしさ」
 「え、ホント?あ、でも9時だ。じゃ、そろそろ」
 「あー、清尾さんだあ。ひさしぶりぃ」
 「あ、K子ちゃん、どもども。残念だけど、またね」
 「うっそぉ。帰っちゃうのぉ?えー、アタシ来たら帰っちゃうんだぁ」
 「あ、そういう言いかたしないでよ。ホントにちょうど今帰るところだったんだから」
 「でも、アタシが来たから、もうちょっと飲んでくんだよね。ね、ね。」
 「えっ。あ、ああ。そうだね。ひさしぶりだもんね。まあ今日中に帰ればいいから」
 「やったあ!ねね、アタシ明日休みなんだ。じっくり飲みたいから付き合ってくれるでしょぉ」
 「いやあ、朝まではまずいなあ。帰らないと」
 「急ぎの仕事あんの?」
 「急ぎじゃないけど、少しやっとかないと、後がたいへんだから…」
 「だいじょうぶよ、清尾さんなら、一日ぐらい。ねえ、平気でしょ」
 「まあ、一日ぐらいなら…何とかなるかな」


 かくして夜は更けていく…。なお「K子さん」とは特定の人物ではありません(じゃ、不特定多数かよ)。


 「ちょっと一杯のつもりで」飲み会に行って、そのまま長居してしまうことがないだろうか。僕はよくある。その都度、家に連絡をするこなどほとんどない。たとえ夜明かしすることになっても、電話を入れないことが多い。別に威張るわけじゃないぞ。
 10数年前になるが、結婚した当初、僕は遅くなるとき家に必ず電話を入れていた。その当時は妻も働いていたので、彼女が帰る午後6時過ぎに、今日は遅くなるから食事はいらない、などと電話をしていた。仕事も遅くなることが多いし、誰かと飲むことも多い。週のうち4日は遅くなっただろうか。たまに電話を忘れると、家に帰ってから叱られたものだった。まだ携帯電話やポケベルが普及していなかったころだ。
 ある日、「これではいけない」と決意した。そして妻に宣言した。
 「俺は、夕食は家では食べない。10時前に帰ることはない。もし早く帰ることがあったら、そのときに電話する。それで夕食にろくなものがなくても、文句は言わない。普段は連絡しないから、心配しないでくれ」。
 なまじ、遅くなるよ、と電話なんかするから、連絡がないと心配する。便りがないのはいい便り。遅いのは当たり前と思っていてくれたほうがいい。最初は妻も驚いていたが、じきに慣れた(んだろうな?)。実際、仕事は忙しかったし、早く帰らなくちゃ、と思うとかえってはかどらなかった。急な用事で夜出かけることもたびたびあった。今と仕事は違ったが、行動はほとんど変わらなかったのである。それで10数年過ぎて、僕には「家にいなくても不思議はない」イメージがあるはずだ。
 ホントに自慢している訳じゃないからね。世の奥さん方に、亭主に余計な知恵付けないでよ!と怒られそうだが、こんな話をしたのは、その人のイメージというのがテーマだったから。

 彼も、初めはこんなことになるとは思っていなかったはず。移籍会見をしたその直後に、日本で最も発行部数の多いサッカー雑誌の取材に答えていたときには、そのまま開幕まで地道に練習を続けるつもりだったろう。あの日は雪が積もっていて、その中を走らされたのにはまいったが、それもご愛嬌だ。
 その3日後のファン感謝デーでは、子ども相手にずいぶんサービスした。元々子どもとボールをけるのは嫌いじゃないはずだし、ああいうこともプロの仕事のうちだ。
 その翌日の練習で、ふくらはぎがピリッと来たのは本当だ。病院で検査した結果、わずかに異常が認められたし、日本の医師も「2週間から6週間」という診断を下した。やっぱり寒すぎたのかもしれない。オフの間「もちろん何もやっていなかった」身に、まじめに自主トレに励んでいた日本人の若い選手と同じことをさせるのは無理があったのかもしれない。
 どうせリハビリをするなら暖かいところがいいし、馴染みの医者もいるリオの我が家の方がいい。ブラジルに一時帰国したことも、「この時期なら」とオフト監督がそれを許可したことも、それほどおかしなことではない。
 しかし、しかし…。
 エジムンドの固い決意も、やっぱり実家に帰ってしまっては、それが揺らぐんだろうか。


 友人A「あれぇ、エジじゃねえか」
 友人B「なんだよ、やっぱり帰ってきたんじゃないか」
 友人C「今年は無理だとか言ってたけど、やっぱりなあ」
 友人A「でも、ちょっと早くねえか。カーニバルはまだ再来月だぜ」
 エジム「違うんだって。ちょっと脚にケガしてよ。それで治療に来たんだ」
 友人B「じゃ、カーニバルの前に帰っちゃうのか?」
 友人C「日本は今寒いんだろ」
 エジム「ああ、でも18日からオーストラリアでキャンプなんだ」
 友人A「じゃ、直接行きゃいいじゃん」
 友人B「そうだよ。12時間かけて寒い日本に行って、すぐオーストラリアに行くなんて面倒じゃん」
 エジム「それもそうだな‥」


 なんてことになっているとは思わない。いや思いたくない。本当にオーストラリアへの入国ビザ取得が遅れたのだろう。「あんな寒い日本へ12時間かけて行って、またすぐオーストラリアに行くより、直接行ったほうがいいか」と思った訳ではないと信じたい。15日のオフトの話では、18日にはオーストラリアに来るそうだ。たぶん今ごろは大西洋上空だろう。もっとも、着いたという情報を得るまで心配だし、もっと正直に言えば、クラブから「エジムンド合流」というリリースをもらっても、この目で本人を見ないと不安だが。
 でも、こんな気がかりはないか。


 友人A「キャンプっていつまで」
 エジム「2月28日かな」
 友人B「何だ、翌日からカーニバルじゃん。日本に帰らないでこっちに来いよ」 
 友人C「試合はいつからだよ」
 エジム「3月22日だけど、その前に8日からカップ戦がある」
 友人A「じゃ、間に合うじゃん。今年のカーニバルは4日までなんだから」
 エジム「そうなあ…。5日の飛行機に乗れば7日に着くか」
 友人B「エジムンドだったらそれで十分だって」


 日本のマスコミがみんな、お約束のように「今年のカーニバルはどうするんだ」と聞いて笑う。エジムンドが(こりゃ、みんな期待してるな。俺はカーニバルにいくべきなのかな)と思ったらどうするんだ。「そのころは家にいるか練習している」と言った「家」って、リオの家のことだったのさ、なんてね。すっかりエジムンドは「練習や試合をほっぽってカーニバルに行くやつ」そして「それでも結果はちゃんと出すやつ」みたいなイメージができあがってしまった。


 エメルソンといえば「練習嫌い」というイメージが定着している。実際見ていると、練習好きとはとても思えないし。去年、このコラムかMDPで、「エメルソンは練習態度はまじめとは言えないが、少なくとも試合になれば一生懸命やっているし結果も出している」と書いたのは事実だ。しかしエメルソンの練習嫌い、合流期日を守らない、などのイメージを付けることに僕も一役買ってしまったのなら反省しなくてはならない。「練習熱心でなくても結果は出す」というのと「練習を真面目にやらなくていい」というのは違うからだ。もし練習をきっちりやった結果、1試合に10本近く放つエメルソンのシュートがほとんど(DFに当たらずに)枠に行ったら、ゴール数は飛躍的に増えるのではないか。甘い?でもエメルソンのシュートが枠に行ってGKにはじかれたところを見た記憶がほとんどない僕としては、彼がシュートの瞬間にDFをかわす技術を身に付けるだけで、今季の得点王は間違いないと思ってしまうのだ。ちなみに聞いた話では、エジムンドは練習になると人一倍真面目にやっていたという。ヴェルディでは。
 イメージというのは本人よりも周りがつけてしまう。エメルソンが日本にいたとすれば、手術した右肩以外の部分はコンディションを上げていけただろうが、彼がブラジルにいてそれをやっているとはどうも思えない。やっていたとしたらそれはイメージとは違う。そして、合流してわずか20日間でコンディションを戻し、3月8日の試合にスタメンで出て、点でも取ってしまったら。そういうイメージもあるが、そんなに甘いものとは思えないし、もしそうなったらうれしい半面少し悲しい。


 たしかにエメルソンは去年のチーム得点王だ。ナビスコカップの準決勝ではVゴール込みのハットトリックも決めた。しかし本人に「きつい練習しなくたって、ほかのやつらより点を取れるんだからいいだろ。俺を使わない訳にはいかないだろ」と思わせてしまっているとしたら、それは周りの責任だ。クラブには今回のことにきちんと対処してほしい。日本の就労ビザなんて去年からわかっているものに、どうしてそんなに日数がかかったのか。肩のケガのリハビリを日本でやるのは不可能だったのか。それが「やむをえなかった」という結論になろうと、「厳しく対処するぞ」というイメージをつけることが大事なのだ。
 そして永井よ、達也よ、徹よ、陽介よ。万一、エメルソンがいなくても自分たちで十分点を取れることを証明してほしい。規律に厳しいはずのオフトに、「練習してなくてもエメルソンを使うしかないか」などと思わせないでくれ。「ツートップの一人はエメルソンで決まり。もう一人を日本人で争う」というイメージを払拭してくれ。
 何もエメルソンが嫌いなわけではない。彼には去年何度もチームを助けられたし、高い年俸に見合う仕事をきちんとしてもらわなければならない。しかしエメルソンに「無理して試合に出なくていいよ。日本人で十分やれるから」と言うことができたとき、彼がどんな態度に出るか。レッズがどこまで変わるか。それが見たい。
 優勝できないレッズ、なんてイメージは絶対に粉砕しよう。
 ナビスコの開幕まであと19日。


(2003年2月17日)

<追伸>
 よく聞かれるから書いておこう。僕は今回のオーストラリア合宿には行かない。MDP増刊号の発行を22日に控えていること、MDPの開幕号が3月8日ではなく1試合おいた15日だから、合宿の話題は少し古くなっていること、などから行かないことに決めた。決して、選手全員が浦和からいなくなるなら、その間のんびりできるからではない。