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COLUMN●コラム


#221
快感


 大勢の人の前に立って一人で歌ったり、演技したり。そういうことのできる人は、それだけでも尊敬に値する。僕にとっては、だが。
 人の前で何かをやる。それも例えば駅頭に立って演説するみたいに、人前と言ってもほとんどが無視して、あるいは聞き流して通り過ぎるような状況ではなく、数千人が自分に注目しているところで何かをやる度胸は僕にはない。まあ、みんなが僕に好意的だと確信を持てるような状況なら10分程度は持つかもしれないが。
 そういうことができなければ、芸能人、あるいは政治家などにはなれないよなあ。でも、そういうプロの人だって、悪意の目ばかりにさらされながら人前に立ちたくはないはずだ。
 でも世間は広い。いろいろな性格の人がいる。もしかしたら人前で、それも1万人以上に注目されている中で、その人たちの恨みを一身に買うようなことをして、自分の周りの空気がギスギスしてくることに、たまらなく快感を得るような人がいないとも限らない。刺すような視線、口汚い罵声、割れんばかりのブーイング。そんなものを自分に浴びせられることが好きで好きでしょうがない、という人。
 そんな人がいたら、Jリーグの主審、それもレッズ戦をレッズのホームでさばく主審をやれば、やりようによっては至福の時間を送れるに違いない。


 たしかにレッズはまだチームとして完成していない。去年より攻撃のアプローチが少し増えたような気がするが、点にならなければ実証されない。まず1点、まず勝ち点1、まず1勝を挙げなければ、3ヵ月のインタバルをはさんだ昨シーズンの連敗と、いつまでもくっつけて言われてしまうのも仕方がない。実質的には関係なくても、記録上は確かにそのとおりだし、勝ちをしばらく見ていないサポーターはそういう気分だ。「しばらく歌ってないから、We are Diamonds、最後までちゃんと覚えてるか自信がない」と真面目に心配している。
 それだから、主審の「サジ加減」でどうにかなるような、そんな試合しかできないのである。ジャッジがどうあろうと、完全に勝つ試合をできないレッズが悪い。そうだけど、とりあえずまず主審に腹が立つ。開幕戦はグラウのうまさにシャッポを脱いだが、第2節は主審の度胸、あるいは性格に感心した。レッズへの文句はそのあとだ。というか、この時期はまだあんなものかな、と思ってるのだけど。


(2003年3月17日)