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COLUMN●コラム


#238
壁に当てた手


 「迷路の抜け方」というのを知ってますか?迷路の入口に立ったら右手を(左手でもいいが)壁につけ、離れないようにしながら歩いていく。そうすると、どんな迷路でも必ず出口にたどり着く。
 子どものころ、初めてこれを漫画で読んだ。先生だか指導者だかの人が紙に書いた迷路を子どもたちに見せて、「この迷路を抜けてみろ」と言う。子どもたちはみんなで「ああでもない」「こうでもない」と言いながら、チャレンジしている。すると出題した先生が「みんな、だめだ。それじゃ日が暮れる」と言って、「こうするんだ」と迷路の道を指でササッとなぞって一気に抜ける。子どもたちは「あっ」と驚く。そして冒頭のやり方が説明される。こんな場面をしっかり覚えているんだから、記憶って面白い。でも何の漫画だかは忘れた。雑誌は「少年」か「少年画報」だと思う。
 でもこの方法を実際にやってみると、ずいぶんと無駄が多い。結局、袋小路があったら一度入って出るようなことになるから、すべての道の半分ぐらいを一度は通ることになるのだ。とてもササッとはいかない。そのやり方でも日が暮れるかもしれない。この方法は「速い」抜け方ではなくて「確実な」抜け方なのだ。袋小路に入ることもいとわないが、右手を離さない限り同じ袋小路に二度は入らない。
 せっかちな人には向かない。もしかしてヤマ勘でいった方があっという間に出口に着けるかもしれない。いきなりは無理でも二度目、三度目のチャレンジで、ヤマ勘が当たるかもしれない。しかし、はずれたらどうしようもない。途中から壁に右手を当てても駄目だ。入口から手を当てていないと、その壁は出口に通じない「島」と呼ばれるものかもしれないのだ。
 初めに壁に当てるのが右手か左手かで時間の差はあるが、絶対確実に迷路を抜けたければこの方法でいくのが一番いい。


 神戸に負けた後でこんな話を書くと、「おーお、また清尾がクラブ擁護をやっとる」と思われそうだが、上記に関しては間違いのない話。それがサッカークラブの経営とイコールではないが、通じるところはずいぶんある。もし神戸に勝っていれば「そうだなあ、ちょっと開幕負けたくらいで、フロントやめろだの監督やめろだの言っていたら、いつまでたっても出口に近づかないよなあ」と賛同を得られたかもしれない。でも今日は「あーあ、先はまだ長いってことか‥」と思わせるだけかも。
 1試合1試合の勝敗によって、確信が強まったり揺れたりするのはしょうがない。いや、そもそも「確信」というなら、揺れないか。初めから「袋小路に入るのは当たり前」と覚悟していても、それがたびたびだったりすると不安になる。それは当然だ。でも壁に当てた手を離してしまっては元の木阿弥だ。


(2003年5月12日)


<追伸>
  実はこのネタを考えたのは先週。福田正博さんと話したときに彼が言った言葉がヒントだ。
 「いまオフトにやらせている。それが、回り道のように見えて一番の近道なんだ。手っ取り早く見える道が、実は行き止まりだったりするんだから。今までがそうだった訳でしょう」
 そして、こうも言った。
 「だからこそ、もう少し勝ってほしい。でないと続けることが難しい状況になるから。元に戻ってしまったらまた初めからやり直しになるよ」
 福田さんも僕も、決してフロント派、オフト派、という訳ではない。言葉で言えば「レッズ派」だ。そのために何が必要か、ということをいつも考えているつもりだ。当面、必要なこと?ガンバ戦の勝利だな。