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COLUMN●コラム


#258
ビジョンの共有、表現の違い


 伊東さんの最後のセリフ、面白かったなあ。
 「(クラブの首脳部の間で)ビジョンを共有してほしい」。


 え、なんのことかわからない?そりゃそうかも。あの場に500人しかいなかったんだから。いや、「しか」はないな、「しか」は。
 1stステージ、終盤で優勝争いもしていなければ、2ndステージに降格の危機を残した訳でもない(百%ない、とは言えないけど)。監督が交代したのでもなければ、大物選手がヨーロッパに移籍する訳でもない。そういうチームが「有事」とすると、1stステージ7勝3分け5敗で6位のレッズは「平時」だ。どちらかというと、2ndステージは山瀬も復帰するし、ニキフォロフも入った、1stステージよりはいけるよな、うん。と、なんとなく安心してしまいそうな日々。平日の、しかもお盆休み前でかえって忙しいかもしれない時期に、埼玉会館に500人「も」集まったのは、やっぱりレッズだからだろう。


 まだ、わからない?ごめん。「第2回浦和レッズ・シーズン2003を語る会」のこと。
 今回は、第2部に犬飼代表、第3部に森GM&オフト監督、という登壇者で、進行を週刊サッカーマガジンの伊東武彦編集長が務めた。冒頭のセリフは、会場の参加者が伊東さんに「3人(犬飼代表、森GM、オフト監督)の話を聞いてどう思いますか」という質問をして、それに答えたものだ。


 その背景も説明しないといけない。


 犬飼代表は1stステージの成績について「柱になるはずのエジムンドがいきなり抜けたにしては、よくやってくれた」と評価していた。エジムンドの電撃退団についてはフロントの責任であり、現場、つまりオフト監督を始めとするチームに迷惑をかけた、とも述べた。
 その上で、「1stステージのサッカーはつまらなかった」と感想を語った。曰く「リスクをおかさないサッカーだ」と。また「昔と(去年と?どっちか忘れた)ちっとも変わらない」とも述べた。もっとも、これはご本人の意見としてではなく、「そういう声が多い」のだそうだ。
 そして2ndステージの目標を聞かれて、「優勝争いをする」と答え、最後の最後には「優勝」とはっきり述べた。その前に「3年計画でしたね」と伊東さんに確認されて「自分は2年に縮めた」「3年でできることは2年でもできる」ともおっしゃっていた。


 で、第3部の森GM&オフト監督。いろいろ話があって、最後に2ndステージの目標を聞かれて、森GMは「年間トップ5」。だから2ndステージは「3位か4位でないと」と答えた。オフト監督は「やろうとすることがすべてうまくいき、大きなケガなどがなければ」と前置きして「1位から5位の間」と言ったのだった。


 伊東さんが「共有してほしい」と言ったビジョンは、2ndステージの目標だけではないだろう。今のレッズのサッカーの見方、および強化プランが3年計画か2年計画か、というところも含めているはずだ。
 たしかに、初めて聞くと「大丈夫かいな、このクラブ」と思うだろう。だって、代表がサポーターの前で「今のサッカーはつまらない」と断言するし、「3年計画だったが自分が2年にした」と言うし、「2ndステージの目標は優勝」と宣言するんだから。最初の言葉はオフトに向けられたもの、二番目は森GMへのもの、三番目はあきらかにGM、監督と表現が違う。もし、これが中部地方のクラブだったら、とっくに監督交代だ。


 サポーターは、自分の目でチームを評価する。いろんな評論を読んでそれに影響されることも多いだろうが、どの評論家の言うことを取り入れるかも自分の判断だ。でも個々のサポーターの判断でチームの客観的評価、あるいは監督や選手の年俸、契約が決まるわけではない。クラブの目標がどこにあって、それに対してどこまで到達したか、あるいは到達しそうか、ということが判断の基準となる。サポーターも心得ているから自分の思い、好みとは別に「今季の目標はここまでだから、それはクリアしているな」と考えることが多くなってきたはずだ。優勝を望んでいるのはもちろんだけど、それと同時に現実的なラインもないと、1シーズン精神がもたない。そういうことかな。


 そのクラブの目標が、どうも代表とGM&監督の間でズレがあるんじゃないか。伊東さんは、そう思ったことだろう。これが去年の今ごろなら、僕も「どうなっとるんじゃあ」とつぶやいたに違いない。
 1年たって、やっと最近わかってきた。わかってきた「つもり」なのかもしれないけど。
 犬飼代表とオフト監督の間にビジョンのズレはない。ただ表現に違いがある。
 オフト監督の「アクシデントがなければ1位も含めた5位以上」というのは現実的な目標だと思う。おそらく犬飼代表だって、今のレッズのチームの到達点、経験、そして他のチームとの力関係を考えれば、そのへんが妥当なところだと思っているはずだ。
 しかし犬飼さんは多分にファンの要素が入っている。表現するときにファンの心理を考慮している、と言ってもいい。「1位も含めた5位以上なら、目標は優勝って言えよ!」と。


 いつも言うように、目標とは一番上に置くもの。「降格しないことが目標」ならともかく、「1位も含めた5位以上」なら一番上の1位を目標と表現してもいいのではないか。僕もそう思うが、オフト監督は違う。「優勝を目標に掲げておいて、序盤でつまずいたら選手たちの気持ちはどうなる。あとはトランプでもして遊んでいればいいのか」と。
 テレビゲームなら序盤3連敗したらリセットするテもあるが、チームは戦っていかなくてはならない。結果的に、3敗しても優勝できるかもしれないが(マリノスは10勝2分け3敗で優勝した)、もし岡田監督が「1stステージ優勝」を早くから掲げていたら、第10節でレッズに負けて5位になった時点で、逆に燃え尽きていたかもしれない。


 現場の指揮官としては選手のモチベーションをこれから4カ月間維持していかなければならない。オフト監督のいう目標とは選手たちに向けられたものだ。ファン、サポーター向けに「目標は優勝」と言っておいて、選手たちには「優勝を意識して硬くなるな」とは言えないだろう。「絶対に勝つ」という言葉がモチベーションとなって頑張れるか、プレッシャーとなって硬くなるかは紙一重だ。1stステージ終盤のジェフを見て、本当にそう思う。今のレッズは「絶対に負けられない」というのが、ナビスコの予選リーグ最終戦ならいいモチベーションになるが、リーグ優勝を意識して15試合を戦うとなるとまた別だろう。だから、ああいう表現になる。「優勝も視野に入れるが、最終的に5位までが目標ラインだ」と。もちろん「あと2~3試合になって首位にいたら、優勝を目指す」とも言ったが、あれはジェフへの皮肉か?
 犬飼さんはファン、サポーターのモチベーションを考えている。代表に就任して、常に口にするのが「みなさんを10年も待たせておいて」という言葉。10年も待ってもらったファン、サポーターに、さらにこれからまた4カ月間応援してもらうのに、希望を持ってもらいたい。その思いが強い。だから、ああいう表現になる。


 だから現状認識としては、犬飼代表も森GMもオフト監督も同じ。そこから導き出される目標もズレはない。しかし表現が違った。あの語る会はそういうことだったのだろう。初めて立ち会った伊東さんが奇異に感じるのも無理はない。よくストレートに、というか的確かつサラッと言えたものだと思う。さすが、と感心した。僕だったら何も言えないか、思い余ってトンでもないことを言ってしまうか(「前科」あり)どちらかだ。


 そんなことを思いながら、これからMDPの企画でオフト監督の取材に行く。「それは、昨日聞いてただろ」と言われそうだな。


(2003年8月8日)


<追伸>
 明日から管理会社がお休みのため更新ができません。次回は18日の更新になります。と言いながら今日中に続編書いたりして‥。