●INDEX

●バックナンバー
●ご意見・ご感想
COLUMN●コラム


#278
フロント


 最近、サッカー誌、スポーツ誌にレッズ関係の話題が多い。僕としてもうれしい限りだが、いつもより1冊に時間をかけて読んでいるので、なかなか読みきれない。
 クラブのホームページでも「今週号の○○誌に△△選手のインタビュー(グラビア)が掲載されています」と教えてくれているが、特集だけでなく通常の連載のテーマにレッズが取り上げられていることまで紹介したら、それだけでここ2~3週間のトップページは埋まってしまうだろう。
 それにしても今、HPのトップに


 現在発売中の「Number」589号に「レッズ初優勝を語る」というタイトルで田中達也選手のインタビューがカラー3ページで掲載されています。また、「SPORTS・Yeah!」80号にも、田中達也選手の独占インタビューがカラー4ページで掲載されています。


 とあるが、「インタビュー」と「独占インタビュー」の違いは何だ?気になるから早く買いに行こう。


 それはともかく。
 サッカーマガジンに連載中の風間八宏さんのコラム「Message from the Pitch」、今週は「フロント」がテーマだった。見出しにレッズの文字はないが、写真はオフト監督だし、そもそも今「フロント」と言えばレッズのことかな、と思ってしまう。その最後の方の次の一文に目が留まった(以下、引用)。


 フロントが退陣するときに、応援している人たちから「頼むから辞めないでくれ」と言われるクラブが、日本にはどれだけあるか。


 そうだよなあ。クラブのフロントなんてうまく言って当たり前、ちょっと悪いとケチョンケチョンに言われる存在。サンドバッグになってもいい覚悟とクラブを愛する気持ちがないと、仕事だけじゃやってられないよなあ。
 同時に思い出したのが、去年の7月13日、1stステージ第8節、埼スタでのジュビロ磐田戦の後の光景だ。選手のあいさつも終わりサポーターが席を立ち始めるそのとき、ゴール裏からバックスタンドにかけて横断幕が掲げられた。


 「凄まじいまでの勝利への執念」「塚本社長ありがとう」


 01年6月から02年6月までレッズの代表を務めた塚本高志前社長へのメッセージだった。「凄まじいまでの…」は同氏が就任直後の「語る会」で、選手に要求するものとして挙げた言葉だった。ただの「勝利への執念」ではなく、「凄まじいまでの勝利への執念」という言葉が新鮮だったのか、サポーターの心に残り、その後よく使われた。今でも口にする人もいる。先日のナビスコ決勝MDPに寄せられたメッセージにも複数あった。
 もちろん、あの日サポーターたちが横断幕を掲げたのは何も「流行語をありがとう」という意味ではない。01年暮れから02年にかけて同代表が行なった改革を指しているのにほかならない。
 GM交代、オフト監督招聘、3年計画。
 GMが交代するのはレッズで初めて。他のJチームの監督を務めた人を監督にするのも初めて。そして「1年目は結果が芳しくなくてもやむを得ない」「強いチームを作るまで3年我慢してくれ」とサポーターに訴えたのは初めてだ。
 それまでも「土台が大事」という話は何度もあったが、「それには時間をくれ」とクラブがはっきり言うことはなかった。土台を造りながらも結果を求める。そういうどっちつかずなやり方で、結局結果も出ず、土台も完成できずに10年間過ごしてきたのだ。
 それはある面ではサポーターの感情に配慮してのことだったろう。勝利を求める多くの声にこたえながら、土台を造っていかなければならない、という人気チームの宿命みたいなものだ。
 だからGM交代、オフト招聘はともかく、この「3年計画」は、レッズ史上画期的な改革だった。もしかすると「サッカー素人」(失礼。でも本人が言っていたから)の代表だからできる英断だったかもしれない。「3年我慢しよう」という言葉に派手さは何もないが、レッズにとって最も必要であって、歴代フロントができなかったことをズバッと決めたのだから。


 多くのサポーターの気持ちは「10年待ったんだから、もう待てない」というより「10年待ったんだから、もう失敗してほしくない」
というものだった。アンケートを取った訳ではなく、僕の皮膚感覚だが、間違いないだろう。だから、この方針を聞いたときに「10年待たせた上に、まだ3年も待たせるのか!」という怒りより(なくもなかっただろうが)、「3年待つのはいい。だが、それで間違いなく結果が出るのか」という疑問の方が多かったはずだ。裏を返せば「本当に結果が出るなら待つ」ということだ。
 1stステージのスタートは、その疑問を増幅させるものだったが、その後のナビスコ予選リーグで「お。これは」と思わせるところもあった。その後ずっと「オフトじゃだめ」「元の木阿弥は嫌だ。待とう」という声が交互に聞こえてきたが、今の状況を見れば答えは明らかだ。今年のナビスコカップ優勝は、ある意味で02シーズンのスタート時に「3年待ってほしい」と宣言した塚本さんの蒔いた種が早めに実をつけたのだと言える。


 02年7月13日の横断幕は、上に挙げたことだけでなく、練習場、下部組織などクラブ全体の改革に手をつけたことも含めた感謝の表われだったと思うが、フロントに対する横断幕と言えば「!」「?」が最後につくものしか見たことがなかった僕としては、「ありがとう」という、その言葉に感動すら覚えカメラのシャッターを切ったことを覚えている(試合時の写真なのでネット上には掲載できません。ごめんなさい)。
 風間さんのコラムを読んで、あの横断幕を思い浮かべた人が僕以外にも大勢いるに違いない。


 「レッズの代表をしていた時期が、自分のサラリーマン人生の中で最高の1年だった」という塚本さんの蒔いた種で、僕たちはいまレッズサポーター人生で最高の時期を味わっている。もちろん「過去最高」であって、これがピークであっては困る。あと3つになった決勝を勝ち抜いて、ナビスコ優勝で示したレッズの力をあらためて証明してほしい。そもそも「3年計画」の目標とは優勝することだけではなく、常勝チームになることなのだから、まだ達成したとは言えないのだった。


(2003年11月14日)


 あ、今日は「埼玉県民の日」か。