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COLUMN●コラム


#282の2
俺たちは何をやってきたか(その2)


<11月2日(日)>

・13時30分
 大原の雰囲気が駒場のようだ。何がって、ダンマク。ここしばらく何枚かのダンマクが「常設」されていたが、今日はいちだんと多い。去年もそうだったか。
 駒場との違い。それは選手個人名のものがないこと。
 去年のとの違い。それは出撃前夜のような緊張感をあおるものが少ないこと。去年の経験にもよるのだろうが、自分たちのサッカーができれば勝てる、という自信が今季はあるのだろう。もっとも自分たちのサッカーをすることが難しいのだが、初めにカウンターありき、ではない今年のサッカーは、自分たちのサッカーをしやすい戦術でもある。ボールを持ったら持ったで我慢も必要なのだが。
 
大原には励ましのダンマクが
 
 
・15時30分
 笑顔で選手たちを送り出す。選手が誰もいなくなってからMDP特別号を出し、大原にいた報道関係者に配る。もちろん選手にも渡すのだが、マネージャーと相談して、それは試合当日のロッカールームで、ということになった。すべては「平常通り」に。


・17時30分
 国立競技場。車を絵画舘駐車場に入れる。いろいろ考えたが、やはり明日、浦和から国立まで大荷物を持って電車で移動するのは大変だ。というより迷惑だ。しかし国立に駐車場がない以上、これしかない。撮影機材を車に積んで一晩停めておくことにする。明治公園ではサポーターが明日の準備をしている。ほぼ終わったようで、大きなダンマクを広げている。PRIDE OF URAWA。見慣れた文字だが、明日これが国立のスタンドに現れるときのことを想像すると、胸が熱くなる。
 え?これ新しく作ったんじゃないのか。「P」「R」「I」…一文字ずつのダンマクをつなぎ合わせたのだという。全然わからなかった。
 明日の朝までずっとこの場にいたい気もするが、仕事だ。前夜祭の会場に向かう。スーパーアリーナじゃないぞ。毎年、決勝の前にJリーグが主催しているものだ。


・21時
 千駄ヶ谷駅。体育館を過ぎると明日の戦場が闇の中に姿を現した。こういうシチュエーションで国立を見るのは初めてだ。明日の準備がまだ終わらないようだ。サポーターたちはどうしただろう。やっぱり気になって来てしまった。
 去年も前夜祭が終わってから来てみたが、そのときはすでに体育館の横からサポーターがズラリと並んでいた。代々木門、明治公園付近ではテントや車座になったグループであふれていたものだった。
 今年は、ほとんどいない。明治公園には明日、入場を待つサポーターが並ぶ仕切りができている。残っているグループは明日の準備の流れでいるだけ。それでもしっかり鍋をつついていたのは、やはり「そういうもの」だということか。うまく説明できなくても理解はできる。僕も少しご馳走になった。なんだ、テレビ埼玉のスタッフも来てるじゃん。浦和に帰る車に便乗させてもらった。
 前夜の国立の様子は去年と全く違って静かだった。では盛り上がっていないのか。そんなことはない。その証拠?MDPの特別号が今日の夕方のうちに完売してしまったことを見てもわかる。印刷部数は去年と同じ2万部。去年も前日から販売を始めたが翌日(試合当日)まで残り、結局3000部ほど残ったはずだ。しかも多めに買った人が結局手元に何部も残ってしまったらしい。
 だから今年も同じ部数あれば十分だろうとしたクラブの判断に僕も同意した。しかし、それが1日ですべて売れてしまったというのは何を意味するのか。「はしゃぎ過ぎ」などと言われた去年のように目立つ動きはないが、その分試合にかける思いは去年よりも高まっているということだろう。
 不謹慎な表現だが、「難民村のお祭り」のような去年の様相も、見てワクワクさせてくれたが、それぞれが家で夜明けを待っていることを想像すると、今年の方が胸が高鳴る。僕の頭には、畳の部屋で正座した武士が、ろうそくの明かりの中で真剣を抜いて手入れをしている、そんな場面が浮かんできた。いかん、池波正太郎の読みすぎか。
 
決戦前夜の国立競技場。明日はどういう気持ちでここから帰るのか
 
 
(続く)

(2003年11月27日)