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#310
誰も寝てはならぬ


 レッズがハーフタームショーをやると聞いて、驚く人もいれば驚かない人もいるだろう。Jリーグの開幕戦では各スタジアムでいろいろなゲストが呼ばれる。スポーツ関係の人もいれば歌手もいる。ロケットマン、なんてのもあった。
 別に開幕戦に限らず呼ぶところもある。J2時代、レッズが鳥栖へ2回目に行ったときは、エガちゃんこと江頭2:50がピッチで何やらやっていた。あの試合ではこっちはそれどころではなかったのだけど。
 レッズもイベントをやらなくもない。埼スタの南門広場では今季の開幕戦で岸中のブラスバンドが演奏したし、去年はたしか出演したバンドが相手チームをけなしてちょっと騒ぎになったこともある。
 だけど、だいたいが試合とはかなり切り離した感じでやっていた。試合前にピッチでやったのはたとえばファミリーJoinデーに国立で場内一周をしてもらったり、同じく国立でJリーグ5歳の誕生日を祝ったり、ぐらいか。
 ピッチで音楽、と言えば93年5月19日のJリーグホーム開幕戦で試合前にアルトサックスのソロ演奏があったことしか記憶にない。それ以降、レッズでは追悼の黙祷などを除いて、試合周りから他のものを極力排除してきた。時間で言うと試合開始約40分前に選手がピッチでウォーミングアップを始めたときから徐々に戦闘モードになっていき、ハーフタームで若干休憩するものの、基本的には試合が終わるまで、緊張が続く、という感じか。少なくとも僕の体はそうなっている。だから車の中で「ハウス・オブ・ラブ」を聴いても、「あ、いかん。カメラは?ノートは?」とそわそわしてしまうのだ。うそだと思ったらあなたもやってごらん。絶対、「あ、やばい。こんなことしてらんない」と思っちゃうから。トイレにいるときとか特に。
 スタジアムの中は、チームとサポーターが作り出す雰囲気で十分。それ以外の演出はいらない。それがレッズのコンセプトだったし、サポーターもそうやって育ってきた。「どうしてレッズは試合前にレディアやフレンディアが来てくれないの!」と言われても、ピッチの周りには出さなかった。


 それが歌をやるというのである。試合前でも意外なのに、なんとハーフタイムショーである。僕が驚く理由がわかってくれただろうか。
 MDPは試合のプログラム、というより試合日のプログラムだから、当日に関わることは網羅しなくてはならない。しかし…、
 ラッセル・ワトソン。誰それ?ロンドンの医者か?
 「誰も寝てはならぬ」。山田に言ってんのか?
 オペラ「トゥーランドット」。ごめん、ちょっと用事が…。


 まったく自分の教養の無さに恥かしくなるが、上記3つのワードはどれも初耳だった。しかし、このレッズがJリーグ12年目にして初めてハーフタイムショーをやるというのだから、時間と出演者と演目だけちょこちょこと書いて終わり、という訳にはいかない。「ラッセル・ワトソン」とは何者なのか、「トゥーランドット」とはどういうオペラなのか、「誰も寝てはならぬ」とはどういう歌でなぜ駒場で歌われるのか。詳しく説明しなくてはなるまい。
 だから買いましたよ。ワッセル・ワトソンのCDとトゥーランドットのDVD。DVDなんか「メイキング・オブ」と2枚買っちゃった。って実は間違えたんだけど。つけてある注釈がわかりにくいぞ!南米の川の名前のネット商社!


 で、まずCDを聴いた。13番目の曲が「誰も…」だった。
 静かでゆったりとしたイントロ。おい、これじゃみんな寝ちゃうぞ、と誰も聞いてないツッコミを入れながら聴いていくと、ん?どこかで聴いたことないか、これ。サビに入ってきて確信した。聴いたことあるよ、絶対。
 何かのCMか?いや違うな、曲の大半に聞き覚えがある。でも俺がオペラを聴くことはまずないし…。あ、もしかしたら。
 家に帰って手持ちのCDを調べてみた。
 あった、あった。Nessun Dorma。
 このCDは2001年の2月、ロンドンの店で買ったもの。96年ヨーロッパ選手権のときの歌「スリー・ライオンズ」が聴きたくて、探し当てたものだ。収録26曲のうち、ほとんどがプレミアリーグ各チームの応援歌だった。「You’ll Never Walk Alone」を始め、チェルシーとかスパーズとかカモンレッズとか英語の歌が続く中で、なぜかいきなりイタリア語の歌が流れてきて違和感があった。このカンツォーネっぽい曲はどこの応援歌だ?セリエAか?それは変だな。と思いながら、わざわざ飛ばすこともないのでそのまま聴いていたのだった。だから聞き覚えはあるがなんだかわからない、ということだったのだ。そうか、Nessun Dormaってイタリア語で、誰も寝てはならぬ、という意味なのか。ずいぶん短いフレーズだな。
 で、この曲と、こういう再会をしてからラッセル・ワトソンの資料や「誰も寝てはならぬ」がどういう訳でサッカー場で歌われるのかを調べた。へえ、そうだったのか。納得できた。詳しくは明日のMDP14ページをどうぞ。
 レッズがハーフタイムショーをやるなんて、今後10年あるかないか。せっかくの機会だ。とにかく、みんなで聴こうじゃないか。


(2004年4月9日)


<追伸>
 「MDPは試合のプログラム、というより試合日のプログラムだから、当日に関わることは網羅しなくてはならない」と書いて思い出した。3月27日のMDPで開門時間を間違えて12時半にしてしまったことで、多くの人にご迷惑をかけたことを深くお詫びします。