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#338
王者のメンタリティ


 マルチボールシステムになってから、ボールデッドの後のプレー再開までが本当に速くなった。選手にとっては息つく暇もなくなって気の毒だが、見る方にしてみればテンポ良く試合が進んでいくので、歓迎だ。ただ、このシステムはボールボーイが慣れていないと逆に遅くなる場合がある。ボールがタッチを割って新しいボールがスローインする選手に投げられる。しかし、それが場所によると2方向からボールが来て、スローインが遅れてしまうことがある。逆にそれを恐れてボールボーイがお見合いしてしまい、なかなかボールが渡されないこともある。出たボールを選手が直接拾ってスローインしようとしたときに、新しいボールが入ってしまう光景も珍しくはない。
 でも、全体としては再開が早くなった。特にクリアボールが遠くに飛んだときなどが一番違う。もはや大きく外に蹴りだして時間稼ぎをすることはできなくなった。


 ここで注。上のパラグラフで、最初に「プレー再開までが本当に速くなった」とあり、後のほうには「再開が早くなった」とあるけど、間違いじゃない(と思う)から。前者は「プレー再開まで(のスピード)が速くなった」んだし、後者は「再開(する時刻)が早くなった」んだから、この漢字使いでいいと思う。微妙だけど。


 で、話を大分戦に戻す(戻ってねえだろ、それは)。
 前半、闘莉王が警告を受けた。本人はびっくりして、その後怒っていた。周りがなだめないと2枚目が出そうな勢いだった。反対側のゴール裏にいた僕は、警告の理由がわからなかった。僕が見ていたのは、レッズ陣内で大分が右から攻めていて、レッズの誰か(後で見たら長谷部だった)のファウルがあり、FKになったけどしばらくして主審が副審に近寄って何やら聞き、そのあと闘莉王のところまで主審が行ってイエローカードを出した、ということ。
 何だろう?そんなにエキサイトするような場面でもなかったし、考えられるのはレッズのファウルを取られたとき闘莉王が何か言って、主審は聞き漏らしたけど、副審が聞いていてチクった(いや、まあ指摘すること自体は普通の仕事なんだけど)、ということ。もしかしてポルトガル語で汚い言葉を吐いて、主審はわからなかったけど副審が理解できてしまったとか?でも普通の日本人にわからない言葉を言っても問題ないんじゃないか?俺なんかロンドンに行ったとき、セブンイレブンのレジに並んでいて、客のオバサンがレジの女の子に「早くしろ」みたいに怒ってるのを聞いて「ババア、うるせえんだよ、混んでんだから仕方ねえだろ、この××××××」と言ったけど、誰も気がつかなかったぞ(紳士的な僕は日本ではこんな言葉は絶対に使いません。だから××××××の部分は書けません)。
 試合の後で公式記録を見たら、警告理由は「異議」だった。家に帰ってビデオを見て驚いた。闘莉王はゴール前にいた。ファウルには何も絡んでいなかった。大分の選手がゴール前に入れたクロスをクリアしただけだった。DFとしてまったく普通の行為だった。ただ、大分の選手がクロスを入れる前にファウルの笛が鳴っていた。だから判定を不服としてボールを思い切り蹴ることで抗議の姿勢を示した。アピールした副審はそう言いたいのだろう。
 ざけんじゃねえぞ、この×××××××。あ、ここはロンドンじゃなかった。闘莉王はDF、ゴール前にボールが入れられればクリアするのが当たり前で、その体勢に入ってから笛が鳴ったって止まらない。いや、聞こえても万一のことがあるから取り合えず蹴っとく。それ普通のことだろう。ボールはコロコロ転がっていたり、止まっていたりした訳じゃない。まさにゴールめがけて飛んで来ていたのだから。まあ、もしかして普通ならクリアでなく前につなぐところを、笛が聞こえたからクリアにしたのかもしれないが、どちらにしても笛が鳴り終わる前からの一連の動作だ。どこに問題がある?
 しかも、しかも。FWでよくある、オフサイドの笛がなっているのにシュートしちゃった、というやつ。それと決定的に違うのは、オフサイドのときはボールを蹴ることによって、間接FKのポイントからボールを離す、再開を遅らせる、ということがあるのに対して、今回の闘莉王の場合はボールを外に蹴り出した方が再開が早い、ということだ。直接FKのポイントは大分の右サイド、ボールはゴールに向かっている。もし、あれを蹴りださずにチョコンとトラップしてその辺に転がしておいたら。ボールボーイはFKのボールを新しく供給できないから、大分の選手がそれを拾ってポイントまで戻さないといけない。でも闘莉王がボールを外に出したおかげで、直接FKはボールボーイからのボールですぐに再開できるのだ。だから遅延行為でなく異議?僕にはクリアの体勢から止まらなかっただけ、としか見えない。黄信号色で交差点に差し掛かって、止まると急ブレーキになるからそのまま走ったら信号が赤に変わった、そういうことだろう。


 ミスジャッジの話なんて聞き飽きてる?そうじゃない、ここまでは前フリ。相変わらず長い。
 同じ大分戦の後半19分ぐらい、エメルソンがドリブルで中央を突破しかかるところで大分のサンドロが引っ掛けて倒すシーンがあった。ボールいくも何もない。すれ違いざまにエメの足をひっかけたもので、これは僕の目の前に近かったからよくわかった。普通なら警告ものだ。特に倒れなければペナルティエリアの中でGKと一対一になっていた場面だったし。しかしファウルの笛は鳴ったが、警告はなし。うーん、またエメジャッジか。奥谷さんは、わりとエメに対するファウルはしっかり取る人だと思ってたけど、気のせいか。まあ○○(自主規制)さんに比べればどの審判も…。
 なんだ、やっぱりミスジャッジの話か?そうじゃない。
 あのときエメは転がって痛がっていたけど、カードを要求して主審に詰め寄ることはしなかったと思う。他の選手は奥谷さんを取り囲んでいたけど。あの試合だけではない。エメは相変わらず速いし、相変わらずファウルまがいのチャージで倒される。そうでなければ止められない。しかし、それがファウルにならなくても怒るシーンが以前に比べてグッと少なくなった。「やれやれ、しょうがないな」というあきらめ顔で立ち上がるだけだ。以前はそれで審判に抗議したり、相手に報復まがいの行為をしたりして警告をもらうことがたびたびだった。ところが2ndステージに入り、ナビスコの横浜M戦を含めて5試合で警告なし。明らかに以前とは違っている。
 大人になったんだろ?たしかに9月6日で23歳になったが、単純に我慢強くなったというより、今のチーム状況を把握した上で、かつ、どうするのが一番良いか考えているのだと思う。たとえば、あの大分戦のサンドロのファウルが4-0のときではなく0-0や0-1の状況だったら。また2ndステージ開幕3連勝ではなく3連敗だったら。猛抗議になっていたのではないか。
 王者のメンタリティ。チームは連勝している。この試合も勝っている。あるいは普通にやっていれば勝てる。そんなときに、少しぐらいのラフプレーやミスジャッジに怒って警告を受けたり自分がカッカして本来のプレーができなくなるより、次のプレーに移った方がいい。チャンスはこの先いくらでも作れるのだから。
 そういうことなんだろう。負けているチームだとこうはいかない。少しでも自分たちの損になるようなことは許さない。審判に抗議をして警告をもらう。あるいはプレーで無理をしてケガをする。そういう悪循環になる。


 勝っていけば勝っていくほど、余裕ができ、その結果、有利に優勢に試合やリーグを進めることができる。それが王者のメンタリティ、なのだろう。そう言うとカッコ良すぎるか。一般の社会で分かりやすい言葉がある。明日の新潟戦もそれでいこう。


 金持ちケンカせず。

(2004年9月17日)