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COLUMN●コラム

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#365
12年間にありがとう


 熊本キャンプの取材から帰って来たのは2月14日。午前9時半ごろ羽田に着いた。武蔵浦和に行くので、品川経由で大崎から埼京線に乗ろうと思った。品川で山手線に乗って車内のテレビ型情報盤を見ると「信号機トラブルで埼京線は上下線とも運転見合わせ」とあった。
 なんだあ!冗談じゃねえぞ!なんて怒っている暇はない。品川から大崎は一駅だ。どうする降りるのか。もう一度表示を見る。埼京線だけではない。川越線、中央線、湘南新宿ラインも止まっているか遅れている。大崎で降りて復旧を待っても、簡単ではなさそうだ。このまま山手線に乗っていれば、渋谷、新宿、池袋と、埼京線に乗り換えるチャンスは何度かある。車内のテレビを見ていればリアルタイムで情報が入りそうだ。
 結局、池袋についても「埼京線運転見合わせ」は変わらず、仕方がないので田端まで行って京浜東北線に乗り換え、南浦和で降りてタクシーで帰った。距離的には歩けなくもないが大荷物が3つもあってつらかったのだ。
 もし品川からの電車の中で情報がなかったら、大崎で降り、荷物を抱えて歩きだしてから「埼京線運転見合わせ」を知り、面倒なことになっただろう。また、その電車の中でリアルタイムに情報を得る手段がなかったら、埼京線に乗る最後のチャンス、池袋でとりあえず降りようかどうしようか迷ったに違いない。さらに、田端まで行って京浜東北線で帰る、という案も何も情報がない状態では実行に踏み切れない。「運転見合わせ」の路線に京浜東北線が含まれていなかったのも、逆の意味でありがたい「情報」なのだ。それもトラブルのある路線をしっかり教えてくれているからであって、その情報に信頼性がなければ、本当に京浜東北線は大丈夫なのか心配になってしまう。日暮里まで行って常磐線経由で武蔵野線に乗って帰ってくる方法だって無くはないから。
 あらためて、信頼できる情報、しかも早い情報の大切さを認識した。こんな仕事をしていながら今さら何だ、と思われるだろうが、情報の受け手になって考えるいい機会になった。

 レッズの情報を知りたい人はどのくらいいるのだろう。5万人?10万人?もっとか。
 エメルソンはいつ来日するの?
 プレシーズンマッチはいつ、どことやるの?
 飛行機や新幹線で行くようなアウェーゲームは早い時期にあるの?
 またナビスコの決勝に進んだら、チケットの優先販売はあるの?どういう人が対象になるの?
 自分のスケジュールや予算のこととも絡むから、早く知りたい。しかし、それらのことは細部まで決定するのに時間がかかることもある。そして正式決定するまでは公式発表されない。かくして噂が一人歩きすることにもなる。時にはだんだん枝葉がついていく。
 たとえば今年のプレシーズンマッチは2月27日(日)のさいしんカップ、草津戦は1月21日に発表された。それを、たとえば1月6日の段階で「今年もさいしんカップとしてプレシーズンマッチをやる予定ですが、まだ確定していません。時期は2月26日(土)か27日(日)のデーゲームの方向です。対戦相手はJ2チームのどこかですが、決定していません」と公式発表したらどうだろうか。
 「何だよ、あいまいな発表するなよ」と困るかもしれないが、「じゃ、とりあえずその土日は空けとこう。19、20日は遊びに行くことにしよう」とスケジュールを決めることができて助かる人もいるだろう。「相手はJ2か。じゃ今回は無理して行かなくてもいいや」と考える人もいるだろう。総合的にはサポーターにとってプラスの情報だと言える。
 たとえ「中間報告」的なものでもクラブが公式に「今ここまで決まっています。ここは未定です」と発表するのは、サポーターの中で「プレシーズン、やるらしいよ」「どこと?いつ?」「27日らしい、相手は知らない」「でも発表されてないよ」…という噂が飛び交うよりはよっぽどいい。まだ全部は決まっていないし、変わる可能性もある。そのことを理解してもらって、情報は早くどんどん出す。しかも公式でないと意味がない。逆に言うと、中間報告すら公式に出ていない事は、本当に何も動いていないか、トップシークレット事項だということになる。クラブとファン、サポーターとの間でそういうルールができていけばいい。
 MDPはシーズン中にレッズが発行する唯一の公式広報物。情報源としては、インターネットのホームページもあるが、この2つでそういう情報を発信していくのは、クラブとファン、サポーターの新しい関係を作っていくことにもなる。ただし敵を利することにもなる選手の怪我情報は、ただ早く、詳しければいい、というものではないが。

 MDPの増刊号が刷り上った。配布は明日からだが、いま手元に来た。
 発行・浦和レッドダイヤモンズ、編集・埼玉新聞社MDP編集室。奥付にこう書かれるのは、この増刊号が最後になる。2005シーズンからは、発行・編集ともにクラブが責任を持ってやっていく。クラブからの直接の情報を増やし、コンフィデンスに関わる微妙な問題をうまく表現して広報していくとなると、クラブ外の会社に委託し続けるのは難しくなる。またレッズとレッズを取り巻く環境が変わっていく中で、MDPの役割も大きくなっていくべきで、それを支える体制も考え直さなければならない。
 そういうことで、埼玉新聞社は今シーズンからMDPの編集から外れる。この12年間は、レッズにとっても、埼玉新聞社にとっても、そしてMDPにとっても大きなメリットがあった。MDPが結ぶ二人三脚の関係は終わるが、地域に密着したサッカークラブと、地域に生きるしかない地方紙の関係は、また新しく発展していくことだろう。
 僕は埼玉新聞社に属しながら、浦和レッズの仕事をやってきた。自分の言葉を持たないMDPに代わって、その両方にお礼を言おう。ありがとう、埼玉新聞社。ありがとう、浦和レッズ。そして、もちろん、ありがとう、サポーターのみなさん。


(2005年2月19日)


<追伸1>
 これまで「MDP編集長」と呼ばれてきたが、自分ではそう名乗ったことはない。名刺にも「編集長」などとは書かれていない。でも「MDP編集室」には僕一人しかいないから(一時、複数いたこともあったが)、責任者には違いない。「編集長」という呼び名にも慣れてきた。
 このたび、MDPの編集をクラブが直接行うことになったので、名実ともに僕は編集長ではなくなる。だってクラブのスタッフでない者が「長」はヘンだから。編集長でないものが、MDPの外で「MDPはみ出し話」と題したものを書くのもおこがましい。そういう訳で、このコラムを終了させてもらうことにした。
 思えば98年から、途中サボった時期もあったけど、よく続いたものだ。我慢して見守ってくれた埼玉縣信用金庫さん、管理者のデジタルコムさん、そもそもこのコラムを書くきっかけを作ってくれたTさんには感謝しても仕切れない。
 今後は、一時休憩させていただき、題材を少し変えて新しいコラムを連載させていただこうと思う。「MDPはみ出し話」は、しばらく読めるようにしておいていただくほか、近いうちに書籍としてまとめるつもりだ。ネットでいつでも読めるものを本にしても…と思っていたが、去年の「望年会」のとき、ある人から「自分の友人はネットをやる環境にない。でも、ぜひ読ませたい。そういう人もいるはずだから、ぜひ本にしてほしい」と言われたので、ちょっと工夫してみることにした。
 長い間、読んでいただいてありがとうございました。またいろいろと励ましやら、お叱りやら、情報やらいただき、モチベーションが保てました。また、いつか。さようなら。


<追伸2>
 本文の「情報」とも絡むので、私事だけど報告しておこう。
 2月20日で埼玉新聞社を退職し、フリーになる。仕事は、ライター兼編集者兼カメラマン。活動のフィールドは浦和レッズ。サッカーというよりは浦和レッズ。少なくともしばらくは。その仕事の一つとして、新しいMDPの編集をお手伝いする。3月5日に出るMDP251号には、どこかに僕の名前も載っているから、「あれ?MDPは埼玉新聞社の編集じゃなくなったはずなのに、なんでまだ清尾がやってるんだ?」と思う向きもいるだろう。それは埼玉新聞社の清尾じゃなくて、フリーランスの清尾だから。48歳を目前にして、24年間勤めた会社を辞めるのは冒険すぎるかもしれないけど…。えい、やっ!