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#355
切り替え


 「切り替えて、次いこう」。


 何度となくみんなと交わしてきた言葉を、僕はまだ口にできない。
 ナビスコの決勝で負けた後も、2ndステージ第5節でFC東京に負けた後も、そう言ってきたし、事実そう思っていた。僕は自分が思っていないことを言葉や文字にできるほど器用ではないから。
 だけど今回はまだ目の前に迫った天皇杯5回戦に向けて切り替えられない。
 なぜだろう。


 積み上げてきた山の高さがそうさせるのかもしれない。日本の頂上まであと少しまで来た。実際、第2戦の後半31分には、指先に触れた気がした。しかし、それを手繰り寄せることはできなかった。
 年間チャンピオンになれなかったからといって、2ndステージ優勝という事実は消えない。最高峰登頂に失敗したら谷底まで転落する訳じゃないんだ。日本のタイトルを分け合っていた「かつての」2強、磐田や鹿島。ナビスコ杯にすべてをかけて見事に持って行ったFC東京。今季唯一「リーグ戦では」レッズに勝ち点を奪われなかった名古屋。今季はそんなチームよりも名目も実質も順位は上なんだ。2ndステージでは、勝ち点数や得点数のステージ記録を更新しての優勝だった。エメルソンの得点王も現在の制度になって最多得点で獲得した。ベストイレブンには史上最多の3人が選ばれた。
 チームの成績(去年はナビスコ優勝、リーグは前後期&年間6位)を見ても、個人の成績を比べても2003年より上と言っていい。カップ戦を取った翌年に、1stステージ3位&2ndステージ優勝、しかもカップ戦でも3年連続のファイナリスト。常勝チームと言えなくても、上位チーム、優勝候補とは言ってよいチームになった。


 そういう記録、数字は間違いなく胸を張れるものなのだが、気持ちは、まだ上を向けないでいる。
 積み上げてきた山の高さ。そう。僕たちが積み上げてきたのは2ndステージの15試合じゃないから。年間の30試合でも、カップ戦を入れて42戦27勝5分け10敗という2004シーズンの戦いでもないから。
 今思うと、積み上げてきた山の高さは12年間分あった。12年かけてようやく日本チャンピオンのタイトルマッチに出場することができた。前半にダウンを奪われたもののダメージはなく、後半のラッシュで相手からダウンを奪い返した。そのままKO勝ちできそうな勢いだったが向こうのうまさにフィニッシュブローを放てず、勝負は判定に持ち込まれた。
 また違うスポーツにたとえてしまった。悪い癖だ。
 12年かけて積み上げてきた山とは、自分の気持ち。あるいはこれまでの自分の人生。やってきたすべてのこと。自分の記憶だけにあるもので、記録や数字に残るものではない。年間チャンピオンになることで、それが幻ではなく確固たる形になるはずだった。それがお預けになって、ダメージが少し大きいようだ。


 でも大丈夫。今までだって毎年(2000年を除き)チャンピオンを目標にしてシーズンをスタートさせ、そして挫折してきたんだから。これまでは挫折してからシーズンが終わるまでに数試合あった。今年は目標に限りなく近づいた分、切り替えに時間がかかっているが、今日あたりから湘南戦に向けて気持ちが高まってくるに違いない。そして「今年の借りは今年のうちに」。FC東京が埼スタで待っているし。
 タイトル戦に負けるのがこんなに辛いのなら、いっそタイトル戦に出るのをやめるか?
 とんでもない。


 常勝チームになったとしても、本当に100戦100勝できるはずもない。特に来季からはもっともっとマークがきつくなる。研究もされる。現実的にはすべてのタイトルを獲得できる訳もない。タイトルに近づけば近づくほど、負けたときの悔しさが大きいことは2002年のナビスコカップ初挑戦で初めて知り、そして先日もっと強く味わった。
 単なる負けではなく、タイトルマッチでの負け。入れた力が千%なら悔しさも千%。それを乗り越える術を身につけるのが、今年最後の経験になるんだろう。
 岡山では会った人と胸を張って握手したい。


(2004年12月14日)


<追伸1>
 12年間の形がない?冗談言うな。MDPは形じゃないのか。そうだった。身近すぎてつい忘れがちだが、12年間の選手の戦いとサポーターの闘いを、浦和レッズは250冊のMDPという形で積み上げてきた。それに関わってきたことをあらためて幸せに思う。


<追伸2>
 12月26日の「2004レッズサポーター望年会」は13日24時の段階で142人の申し込みがあった(幼児を除く)。だいたい例年並み。とりあえず12月16日の24時まで締め切りを延ばそうと思う。詳細は#353を参照のこと。