Weps うち明け話
#103
手に入った3巻目
 僕の小学生時代はもちろんホームビデオなどなかった。テープレコーダーでさえ一部のマニアがオープンリールを持っていたかもしれないが、家庭用のカセットテープレコーダーが普及し始めたのは、確か中学1年生のときだった。
 だから見たいテレビ番組は絶対に見逃せなかった。「ウルトラQ」や「ウルトラマン」が始まる6時5分前にはテレビの前に座っていた。こころの準備が必要だった訳ではない。当時のテレビは、スイッチを入れてから画像が出るまでに数分かかるのだ。親がたいていテレビをつけている大相撲の本場所時期以外は、6時前にテレビがついていることはあまりなかった。当時は見もしないテレビをつけておくなんて、電気代がもったいなくてあり得なかったから。
 しかし、何かの理由でその時間に家に帰っていなかったり、遅い時間だと眠ってしまったりして、見逃してしまうことだってある。そんなときは悔しくて仕方がない。再放送がない限り絶対に見る機会はないのだから。ましてやそれが最終回だったりすると…。

 「遊撃戦」は小学生向けの番組ではなかったかもしれない。放送された時間も早くなかったと思う。もしかしたら毎週土曜日だったかも。なぜなら僕は小学生時代、翌日が休日のときのみ9時を過ぎても起きていることが許されていたからだ。
 とにかく「遊撃戦」は面白かった。日本軍の少数精鋭7人が中国大陸を徒歩で移動して、中国軍の飛行基地を爆破しにいくという物語だった。当時は意識していなかったが、戦争物では定評のある岡本喜八監督が監修していたのだから面白いのは当然だったのかもしれない。ただのドンパチドラマではないのだ。どうして岡本監督が関わっていると知っているのか。実は先日、インターネットレンタルのDVDで発見し、全13話を一挙に見たからだ。このドラマがDVDになっているのを見つけたときの僕の喜びようと言ったらなかった。
 だって単なる懐かしさだけでこのドラマをもう一度見たかった訳ではない。「遊撃戦」の最終回を僕は見逃していたのだ。実は初回も見なかった。友達に言われて第3回から見た。導入部を見逃すのも残念だが、続けて見ているうちに何となく状況がわかり、気にならなくなってくる。しかし、クライマックス、大団円、起承転結の結、最終回を見逃しては取り返しがつかない。なんのためにここまで毎週見てきたのだ。おそらく、その日は何かで疲れて早寝してしまったのだと思う。僕はしばらく立ち直れないほどのショックだった。40年近くたってから、「遊撃戦」の最終回を見たときの感動。これは40年間待った者でしか味わえないだろう。

 全3巻の小説を2巻まで読破。さあ最終巻、と思っていたところが、その第3巻がなくなってしまった。ある意味、3巻目を読むために1、2巻を読んできたのに、何で…。だがもう手に入らないのだから仕方がない。泣く泣くあきらめた。
ところが、思いがけずその第3巻が11年ぶりに手に入った。この喜びは、40年ぶりに「遊撃戦」の最終回を見ることができた、あの感激に匹敵する。いや、もしかしてそれ以上になるかもしれない。
 実は、第3巻はまだ書かれていなかったのだ。だからどんな結末になるか、決まるのはこれからだ。作家は11年間の熟成期間を経ているから、内容の充実度はもっと期待できる。しかも小説の主人公は作家の手を離れて11年間、一人歩きしていた。第3巻が最終になるとも限らず、4巻目、5巻目もあるかもしれない。
 作家は「ハッピーエンドになるように努力する」と語ってくれた。
 ほんの少しの不安はなくもない。しかし期待の方がはるかに大きい。そんな最近だ。
(2007年2月14日)
〈EXTRA〉
 本文だけで意味がわかった人にとっては蛇足なので、以下は読まない方がいいかも。
ホルガー・オジェック監督は、1995年と96年の2年間レッズの指揮を執った。前年まで2年連続年間最下位だったチームを、就任1年目の前期(第1ステージ)は3位にまで躍進させた。選手もサポーターも勝ち続ける喜びを初めて味わった。
 年間1ステージ制で行われた96年は開幕5連勝というスタートを切り、途中停滞したが後半巻き返し、10月には一時首位にも立った。最終的には6位に終わったが、「優勝争い」を感じたシーズンだった。この年の天皇杯は92年以来のベスト4まで勝ち抜いた。
 レッズを応援する喜びを主観だけでなく結果でも享受できた2年間。しかも1年目より2年目の方が向上している。さあ、3年目だ、と僕も思ったが、オジェックの契約更新はなし。「ある程度チームは向上したが、さらなる成長が必要。そのために監督を交代する」というクラブの説明があった。前半には大賛成だったが、後半には当惑もした。どうしてオジェックではそれが不可能なのか。だが、もっとレベルアップさせられる監督に交代する、というのだから翌年に期待した。
 ケッペル監督が就任した97年はクラブの目論見通りのものではなかった。翌年への希望も抱かせず、また監督が交代した。結果論をくどくど言っても仕方がないが、時間を1年間戻してオジェックの3年目が見てみたい、と思ったのは僕だけではないだろう。たぶんクラブのフロントが一番悔やんでいたはずだ。
 先日、オジェックに取材したときの雑談。

 「11年前、全3巻の小説の2巻までを読んで、続きが読めなかった気分だった。ようやく3巻目を読める」
 「それがハッピーエンドになるようにしたいね」
 「もちろん、そう期待している」
 「登場人物は11年前と同じかも知れないよ」

 2巻までに登場したのは山田、岡野、内舘の3人だけ。だが浦和レッズという主人公はずっと変わらない。
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