僕の小学生時代はもちろんホームビデオなどなかった。テープレコーダーでさえ一部のマニアがオープンリールを持っていたかもしれないが、家庭用のカセットテープレコーダーが普及し始めたのは、確か中学1年生のときだった。
だから見たいテレビ番組は絶対に見逃せなかった。「ウルトラQ」や「ウルトラマン」が始まる6時5分前にはテレビの前に座っていた。こころの準備が必要だった訳ではない。当時のテレビは、スイッチを入れてから画像が出るまでに数分かかるのだ。親がたいていテレビをつけている大相撲の本場所時期以外は、6時前にテレビがついていることはあまりなかった。当時は見もしないテレビをつけておくなんて、電気代がもったいなくてあり得なかったから。
しかし、何かの理由でその時間に家に帰っていなかったり、遅い時間だと眠ってしまったりして、見逃してしまうことだってある。そんなときは悔しくて仕方がない。再放送がない限り絶対に見る機会はないのだから。ましてやそれが最終回だったりすると…。
「遊撃戦」は小学生向けの番組ではなかったかもしれない。放送された時間も早くなかったと思う。もしかしたら毎週土曜日だったかも。なぜなら僕は小学生時代、翌日が休日のときのみ9時を過ぎても起きていることが許されていたからだ。
とにかく「遊撃戦」は面白かった。日本軍の少数精鋭7人が中国大陸を徒歩で移動して、中国軍の飛行基地を爆破しにいくという物語だった。当時は意識していなかったが、戦争物では定評のある岡本喜八監督が監修していたのだから面白いのは当然だったのかもしれない。ただのドンパチドラマではないのだ。どうして岡本監督が関わっていると知っているのか。実は先日、インターネットレンタルのDVDで発見し、全13話を一挙に見たからだ。このドラマがDVDになっているのを見つけたときの僕の喜びようと言ったらなかった。
だって単なる懐かしさだけでこのドラマをもう一度見たかった訳ではない。「遊撃戦」の最終回を僕は見逃していたのだ。実は初回も見なかった。友達に言われて第3回から見た。導入部を見逃すのも残念だが、続けて見ているうちに何となく状況がわかり、気にならなくなってくる。しかし、クライマックス、大団円、起承転結の結、最終回を見逃しては取り返しがつかない。なんのためにここまで毎週見てきたのだ。おそらく、その日は何かで疲れて早寝してしまったのだと思う。僕はしばらく立ち直れないほどのショックだった。40年近くたってから、「遊撃戦」の最終回を見たときの感動。これは40年間待った者でしか味わえないだろう。
全3巻の小説を2巻まで読破。さあ最終巻、と思っていたところが、その第3巻がなくなってしまった。ある意味、3巻目を読むために1、2巻を読んできたのに、何で…。だがもう手に入らないのだから仕方がない。泣く泣くあきらめた。
ところが、思いがけずその第3巻が11年ぶりに手に入った。この喜びは、40年ぶりに「遊撃戦」の最終回を見ることができた、あの感激に匹敵する。いや、もしかしてそれ以上になるかもしれない。
実は、第3巻はまだ書かれていなかったのだ。だからどんな結末になるか、決まるのはこれからだ。作家は11年間の熟成期間を経ているから、内容の充実度はもっと期待できる。しかも小説の主人公は作家の手を離れて11年間、一人歩きしていた。第3巻が最終になるとも限らず、4巻目、5巻目もあるかもしれない。
作家は「ハッピーエンドになるように努力する」と語ってくれた。
ほんの少しの不安はなくもない。しかし期待の方がはるかに大きい。そんな最近だ。 |