Weps うち明け話
#116
A3とトヨタカップ
 A3に関しては、クラブワールドカップが日本開催になるまでは、僕の中ではACLより身近に感じる大会だった。なぜなら2002年のナビスコカップでレッズが鹿島に勝っていたら、翌年の第1回A3チャンピオンズカップには開催地の第2代表ということでレッズが出場していたからだ。
 初めてタイトルというものに迫った2002年11月4日。押された展開でレッズに点が入る匂いがあまりしなかったが、攻撃も何とかしのいでいた後半14分、小笠原の強いパスが井原の背中に当たりGK山岸の完全な逆をついてゴールイン。その1点で負けてしまった決勝から5ヵ月足らずの大会がA3だった。後から「経験の浅いレッズは負けるべくして負けた」と語る人もいたが、初の決勝で1点差、しかも「三角跳びミドルシュート」みたいなゴールでタイトルを取れなかった悔しさはしばらく消えず、「勝っていたら、この大会に出ていたんだよなあ」と、僕にしては珍しく鹿島vs大連、磐田vs城南一和といった他チームの試合をテレビで見ていたものだった。

 A3は、いわば旧トヨタカップみたいなものだ。

 2004年の第25回大会を最後に終了した旧トヨタカップ、「ヨーロッパ/サウスアメリカ インターコンチネンタルカップ」はFIFAの公式な世界大会ではなく、ヨーロッパサッカー連盟(UEFA)と南米サッカー連盟(CONMEBOL)のチャンピオンクラブ同士で雌雄を決する大会をやろうよ、というものだった。もっとも南米クラブチャンピオンを決めるリベルタ・ドーレス杯は、「ヨーロッパ/サウスアメリカ インターコンチネンタルカップ」をやることになったから、それに出場するクラブを決めるために設立された大会らしいが。
 もし「ヨーロッパ/サウスアメリカ インターコンチネンタルカップ」が始まって数年後に、FIFAが「世界クラブ選手権」を開催していたら、旧トヨタカップは続いていなかったかもしれない。だが、ヨーロッパと南米以外の大陸連盟が力をつけてきたのは、ここ10年くらいのことだったから、旧トヨタカップが「クラブチーム世界一決定戦」と謳っても、どこからも文句は出なかった。10回、20回と続くうちに大会の権威も揺るぎないものになっていったのだ。

 アジアには、A3より先に「アジアクラブ選手権」と「アジア・カップ・ウイナーズカップ」があった。だがアジアの各クラブ(というか各国)のサッカーはレベルの差が大きく、日本の各クラブは、参加することに疑問を感じていたと思う。もちろんベスト8ぐらいになれば厳しい試合になることは間違いないが、そこにいくまでには10-0とかの試合がザラにある。Jリーグを戦っている最中に、そんな試合に戦力と労力を割くのは…、というのは至極当然の話だ。
 だから、もしアジアクラブ選手権が今も同じ形で続いていて、かつクラブワールドカップが存在しなかったら、A3は東アジアナンバーワンクラブを決める大会として、権威が確立していっただろう。もしも「ガルフカップ」のクラブ版みたいな「中東クラブ選手権」があったら(もしかして、あったのか?知らない)、「イーストアジア/ウエストアジア インナーコンチネンタルカップ」ができていたかもしれない。
 しかしアジアの2つの大会が整理統合されて、ACLを始め各国のレベルに合わせた3つの大会が新しくできた。今季のACLは強豪15ヵ国から2チームずつ(タイとベトナムは1チームずつ)が出場するアジア最高レベルの大会となった。さらにクラブワールドカップの開催により、世界への切符を懸けた大会としてACLの価値が跳ね上がった。
 一方、A3は開催時期がズレたりして相対的に意義が薄れていった。実際、Jリーグで優勝したチームはACLでまず1ヵ月に1回の海外アウェイが3回あり、国内ではディフェンディングチャンピオンとして厳しいリーグ戦を行う訳で、そういうときにたとえレベルはアジアでもトップクラスのチームが集まるとは言え、上につながらない大会が入ってくるのはモチベーション的にどうなの?という訳だ。

 なんだか太田裕美の「木綿のハンカチーフ」や守屋浩の「僕は泣いちっち」に出てくる男女みたいな気がしないでもない。
 サッカー界に限らず「公式大会」が重視されていくの当然だろう。権威があとからついてくる場合もあるが、しかし「プライベート大会」が「公式大会」にかなわないのは仕方がない。
 しかし地理的にも近く、レベル的にも拮抗している日・中・韓3国の大会というのは、親善ということだけでも意味があるし、ACLとは違って短い期間に自分たちのアジアでのレベルがわかるから有効ではある。今季から若い世代の大会も併設されたようで、その存続のために関係者も努力しているようだ。
 今季の日程を見たときに、「この時期のA3ってきついよなあ」と思ったし、6月9~10日開催分の第14節は8月1日の水曜日に回ることになるので面倒だけど(相手の広島も気の毒だが)、自分たちのことを考えなければ(何て勝手なヤツだ)、A3自体は形を少し変えても継続していってほしいと思った。
 たとえばACLに出ない、各国のナンバースリーが出るのはどうだろう?日本だとナビスコカップ優勝チームが出るとか。自国開催のときはJリーグチャンピオンが加わるとかさ。それじゃA「3」にはなっても「チャンピオンズカップ」にはならないか。
(2007年6月6日)
〈EXTRA〉
 という訳でA3の取材のため山東省済南市に来ている。暑い。日中は34度~35度。夜中でも24~25度。これから来る人はご注意を。喉の弱い人はマスクを持って来たほうがいい。
 昨日、A3の前夜祭があった。取材の仕切りなど何もなく、やりやすい面もあるけど、平気でステージの前に立つカメラマンとかもいて、邪魔にもなるという、極めてこの国らしい運営だった。
 しかしA3に大会テーマソングがあって、それを倉木麻衣が歌っているとは知らなかった。前夜祭に来てあいさつするくらいなら、2月ごろから日本でレッズにアプローチした方がヒットしたかもしれなかったのに。
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