Weps うち明け話
#190
母の町の水害対策
 8月11日(火)は、午前7時半に浦和を出発してJヴィレッジに向かった。第14回全日本女子ユース(U-15)サッカー選手権の取材のためだ。午前6時半ごろに起きて支度をしながらテレビを見、5時過ぎに静岡県地方をかなり強い地震が襲ったことを知った。熟睡していて揺れにまったく気がつかなかったのだ。
 びっくりしてしばらくテレビに見入っていたが、ふとあることに気がついた。震度6弱の地震というのは僕のイメージではかなり強いのだが、それにしては被害の報道があまりない。発生からまだ時間があまりたっていないから、報告が入っていないのだろうか。それもあるかもしれないが、静岡という土地柄、人も建物も地震に対する備えは僕たちよりもしっかりできているということが考えられる。いや、それは絶対に他の地域との違いとしてあるに違いない、と。そして、不幸にして亡くなった方やケガをした方が後に明らかになったが、やはり防災の対応がかなり被害を軽くしていたことが報道された。

 以下は、僕の母親から聞いた話である。
 僕の実家は、石川県と福井県の境、大聖寺川という小さな川の河口の町にあるのだが、この大聖寺川は僕の母が子どものころまでよく氾濫していたらしい。大雨が降って町の中央まで水が出ることは珍しくなかったという。水が引いた後の後片付けは大変らしい。水に浸かった家財道具の手入れなどもそうだが、町中に汚いゴミが残る。その掃除が一苦労だそうだ。
 ある日、例年よりももっと大量の雨が降った。そのときは母の町はもちろん、川の上流にある大聖寺町でも川が氾濫した。大変な災害である。県だか国だか忘れたが、災害援助金が出ることになり、被害の状況を役人が視察することになった。大聖寺の町を視察し、母の町に来た。その結果、大聖寺には援助金が出たが母の町には出なかった(または両方とも出たが、金額が大聖寺の方がはるかに多かった)そうだ。
 川の氾濫の程度は下流である母の町の方がひどかったらしい。ところが水害に慣れている我が町の人たちは対応にも慣れている。家財道具を非難させるなどももちろんだが、一番厄介なゴミの処理が際立っていたらしい。水が引くころになると町の人総出で、ゴミを水が引くのに乗せて川に流してしまうのだそうだ。そのタイミングを逃すと大変らしい。
 ところがふだん川の氾濫など経験していない大聖寺の人たちは、そんなことを知らないし、まずは自分の家のことだけで精いっぱいだっただろう。だから水が引いた後、町のいたるところに汚いゴミが残り、視察に来たお役人はその惨状を目の当たりにしたというわけだ。そして、それに比べれば母の町はきれいなものだったから援助金もそんなにいらんだろう、ということになったらしい。
 以上、母親が昔の記憶で語ったことを、僕がいま思い出して書いているのだから、細部は違っているかもしれないが、こんな話だった。さっきの、静岡の人たちは地震への備えができているから震度6弱でもそれほど大きな被害が出ない、というのと似た内容だ。出かける支度をしながらそんなことを考えた。

 家を出、カメラバッグを転がして仕事モードになると、別のことを連想した。前日の「トークオントゥギャザー(以下TOT)」で、フィンケ監督が語った選手獲得の話が急に浮かんできた。世代別の代表になったこともあるような海外の選手を獲得しようとしたが、予算の関係で不可能だったという話だ。
 僕の記憶では、レッズが誰かを獲得しようとしたとき、ほとんど例外なく事前にどこかのメディアがつかんでいた。つかめば書かれ、クラブが表明する前に多くの情報が飛び交うというのが常だった。
 しかし、今回はどこのスポーツ紙にも載らなかった。10日の翌日になって具体的な名前や、一度大原を訪れていたことが書かれていたが、そこまで接近していたのに、これまで一切話題にならなかったというのは珍しい。
 選手獲得の話は、契約書にサインするまで公にしないのが理想。しかし、どういうわけか漏れる。そういうものだった。今回は静かだった。そうすると「選手獲得についてレッズは何もやっていないではない」とスポーツ紙は断じるし、一部のサポーターもそう思う。だが、それは情報管理をしっかりしていた、という当然のことをやっていただけであり、実際にはしっかり動いていたということだ。表面に見えないと何もやっていないように見えるが実はそうではない、ということで、僕の母の子どものころの水害後片付けから連想しても不思議はないだろう。

 この話をTOTの場で、しかも質問されてもいないのに、監督が披露する必要があったのかどうかわからないが、少なくとも今季のクラブは表面から見えないところでいろいろと動いており、昨年までより情報管理はなされている、ということは言えそうだ。
(2009年8月13日)
〈EXTRA〉
 忘れてた…。今週は更新ができないんだった。
 日付を入れて溜めておきます。更新がないように見えても書いていないとは限らない、という証明のために(ふだんはホントに書いてないだろ!)
〈EXTRA・2〉
 文中、「母の町」と何度も出てくるが、僕の生まれ故郷でもある石川県加賀市塩屋町である。塩屋町と書けばいいのだが、全国にある町名なので混同されそうでやめた。ちなみにこの日取材に行ったJヴィレッジの近くにもあるし。
TOPWeps うち明け話 バックナンバーMDPはみ出し話 バックナンバーご意見・ご感想