オリンピックに「冬季」があるのを知ったのは1972年の札幌冬季五輪のときだった。小学生時代に64年の東京五輪、68年のメキシコ五輪を知って、大方の日本国民同様、大の五輪好き少年になったのだが、オリンピックにウインタースポーツ編があるのは、そのときまで知らなかった。なぜだろう?64年2月のインスブルック五輪、68年のグルノーブル五輪の情報は、小学生には入って来なかったのだろうか。フランシス・レイの「白い恋人たち」は聞いていたのに。
72年の2月は中学生3年生で、高校受験の直前だったが、学校での話題は札幌冬季五輪で持ちきり。東京五輪のときに、自転車を持ち上げて重量挙げの三宅義信の真似をしたのと同様、モップでアイスホッケーをやったものだった。
そしてマットのあるところでは、スキーのジャンプ競技の真似ができた。実際に飛ぶのではなく、空中にあるときの前傾姿勢を何秒保てるかを競うのだ。最後は前に倒れるからマットが必要になる。
この札幌五輪でジャンプの「飛型点」を知った。遠くへ飛ぶだけでなく空中の姿勢を採点して、それが飛距離のポイントに加えられると聞き、どうしてなんだろう?と思った。陸上競技の幅跳びや高飛びでは飛型点などない。幅跳びに比べれば滞空時間ははるかに長いが、そんなに差がつくほどの時間は飛んでいない。計測が50cm単位だから、同点が多くなるためか?
で、当然ながら一度もやったことがないのだけど、理想とされる飛型から外れた姿勢で飛んで、飛距離が伸びることってあるんだろうか?きれいな飛型を取ることが飛距離の伸びにもつながるんではないのか?と中学生は考えていたわけだ。受験勉強を後回しにして。
サッカーの場合、内容は面白くなくても試合に勝つ方法はある。実際、公式戦で後半の30分まで負けていたり同点だったりすると、オウンゴールでもPKでも、何でもいいから1点入れろ!と心で願ってしまう。内容では圧倒していたけど点が取れず、最後に相手がヤケで蹴ったロングシュートが入って負けちゃった、では嫌だ。やはり試合では勝つことが大前提で、それでいてサッカーの内容も面白ければもっと良い、と思ってしまうのだ。
だが、冷静に考えると、チームはきれいなサッカーをすることを目的に練習しているわけではない。点を取るためにどういうサッカーが一番有効か、ということを考えて練習している。ふだん練習しているサッカーを実際の試合でも貫くことが勝利への近道であることは間違いない。
練習では少ないタッチでボールを回しながら相手ゴールを狙うことをやっているのに、試合になったら早くゴールに近づきたいからとボンボン前線へ蹴ってばかりいては、点は取れないと思う。もちろん、ふだんからそういう練習をしているチームであれば、それが一番点を取りやすい形なのだろうが。
いかにコンビネーションで点を取れるサッカーを目指していても、完成度が低ければ勝利にはつながりにくい。それが去年だった。2年目の今年は、土台ができているから、去年よりも高い完成度が期待できる。理屈では確かにそうなのだけど、12月上旬から今年1月10日までのオフの間に勝手にチームが熟成するはずがない。ワインなら寝かしておけば熟成するのだろうけど。つまり、昨年の3月開幕時よりは完成度は高いだろうが、昨年の12月時点と比べて一気にレベルアップしているはずはない、ということだ。
正直な印象を言えば、今の時点でレッズが去年よりも良いのは、セルヒオの動きが良く周りの使い方が非常に効果的になっていること、平川が本調子なこと、達也もケガなく調子良くやっていること、宇賀神がうまく前に抜け出してタイミングの良いクロスを何本も出せること、柏木が入ったときに前へのパスが増えること…。個人の良さが目立っている。チーム全体のコンビネーションが上がっているかというと、サイドチェンジの数が増えたことを除くと、そう大きくは変わっていない印象だ。
だが微増はしている。相手がJ1だけではないので、単純には喜べないが、練習試合を見ていて「お!」という場面は確実に何度かある。その数は去年のシーズン中よりも多いと思う。
チームは個人が集まって作るもの。いま好調な選手たちがコンセプトに基づいてチームを引っ張ることにより、チーム全体がアップしていく。Jリーグが開幕してからも向上は続くし、実戦が続いた方がそのスピードは速まるだろう。
飛距離を伸ばすためにきれいな飛型を作るように、点を取るために、勝つために、今のサッカーを少しずつ熟成させる。サッカーで飛型点はもらえないから、見ている方はじれったくなるかもしれないが、選手たちは、この先に最長不倒距離が待っている確信があるから、今日も励んでいる。 |