Weps うち明け話
#250
ボールボーイたち
 ん?いまボールボーイがこっちを見て頭を下げたな。

 10月16日、埼玉スタジアム。セレッソ大阪戦。ウォーミングアップ中の写真を撮るためにゴール裏にカメラを持って出たら、球拾いのために待機中のボールボーイの1人が僕を見ている。
 レッズのホームゲームでは、ボールボーイや担架要員、その他試合の運営に関する補助スタッフは中央大学のサッカー同好会が歴代受け継いでいる。だが、いくら僕が中央大学出身とはいえ、30年以上も下の学生に挨拶されるほどの有名人ではないはずだ。
 で、ほかのボールボーイに目をやると、あれ?あ、あいつも。あいつも。

 そこには、浦和レッズジュニアユースの選手たちがいた。年に何度か、中大のスタッフが自分たちの試合とホームゲームが重なる日がある。そんなときは、試合に出ない4年生が何人かは来てくれるが、圧倒的に人数が足りなくなるから、レッズのジュニアユースに声がかかる。この日はふだん試合に絡む3年生、2年生23人が補助スタッフとして駆り出された。いつもと違う濃紺(一部は白だったが)のスタッフユニフォームに身を包み、浦和レッズの試合を間近で見ながら、背中にサポーターの応援を聞き、試合の運営を手伝っていた約4時間、彼らは何を思っていたのだろうか。

 前半は、みんなここでプレーする気持ちを無くすなよ、と思いながら試合の写真を撮っていた。
 もう10月。ジュニアユースの中3は来年ユースに行ける行けないがはっきりしていて、何人かとは、来年レッズのユニフォームを着た姿を見られない。だがここでプレーする可能性が消えたわけじゃない。高校で、大学で活躍して、レッズからオファーを受けることだってある。レッズ以外のクラブでプロになる道もあるだろう。
 ボールがアウトになって、ボールボーイが走るたびに、誰か選手が痛んで担架要員がスタンバイするたびに、今年の春からずっと見てきた選手の顔とプレーを思い出しながら、そんなことを考えていた。

 後半、宇賀神が登場した。これでピッチに立つレッズジュニアユース出身選手は3人になった。どうだ、お前たちの先輩は頑張っているぞ。あとに続けよ、と考えてしばらくすると、僕がシナリオを書いたのかと思われるような場面が訪れた。エジから預かった峻希が密集地帯を抜け出し、中央の宇賀神へ、そしてワンタッチで原口で。エリア手前左の通称“原口ゾーン”に達した原口はそのまま右へタイミングを計りながらドリブルしシュート。見事にゴールへ突き刺した。
 見たか、お前たち。あの3人の連係で作ったゴールシーンだぞ。先制点も峻希と原口でお膳立てしたものだったが、今回は起点からフィニッシュまで“純正レッズジュニアユース”だ。こんなシーンを目の前で見られたなんて、そして中毒になりそうな埼スタの盛り上がりをピッチで感じることができたなんて、なんて幸せなんだ。

 リーグ8試合負けなしで3連勝、ホーム2連勝、上位との勝点差を縮めた。僕のその喜びを、この日のボールボーイたちの存在が何倍にもしてくれた。
 ピッチから引き上げていく彼らたちに、心の中で「ここで待っているぞ」と声をかけた。数年後、彼らの中でレッズでプロになった選手に、「中3のときボールボーイをやって、峻希、宇賀神、原口で取ったゴールのことを覚えていますか」と聞くのが楽しみだ。
 だから、この仕事はやめられない。
(2010年10月18日)
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