Weps うち明け話
#278
「ありがとう」に応えるには
 被災者の「何もかもなくなったけど、生きていられるだけでいい。これからまた頑張る」という言葉。
 避難所での、おにぎりと味噌汁だけの食事を得て「美味しいです」と喜ぶ顔。
 そういう光景をテレビで見て、自分は何をやっているんだろう、と思う。
 ときどき来る揺れと緊急地震速報にはおびえ、深刻な原発の事故処理を気にするのは当然だ。だけど何も失ってはいないし、衣食住は足りている。健康被害もない、少なくとも震災に起因するものは。

 ふだん、あまり多くは食べない米のストックが少なくなってきたので、スーパーに買いに出たら棚から一切無くなっていて、3軒目に行ったところでようやく2キロを買えた。10キロはもちろん、5キロでさえ使い切るのにだいぶかかるから、ふだんから米は2キロ入りしか買わないのだが、今回だけはあれば10キロ入りを買っていただろうと思う。水も2リットル入りのペットボトルは売り切れ。500ミリリットルのものをいっぱい買っておこうか、と思った。昔、徹夜仕事に備えて夜食用のカップ麺をドラッグストアで大量に買ったのを思い出した。米がなければパック入りのご飯を買うか、と思ったがそれも売り切れ。どうする?車で走り回るか?
 やめた。「カッコつけていて、後で腹へって泣いても知らないぞ」と言うもう一人の自分もいた。それを抑え込んだのは、大家族とか、小さな子やお年寄りがいるわけでもない自分が今ここで、ふだんなら買わないもの、普通の暮らしに必要なもの以上を買うことが、被災者の健康を損なわせることにつながるかもしれないという思いだ。その前に、近所にいっぱいいる育ち盛りの子どもたちの食い扶持まで奪ってしまうかもしれないし、車などで遠くへ買い物に行けない人たちの分を減らすことにもなる。そんな簡単なことに、すぐには気づかない自分がいたのだ。結局、停電に備えて懐中電灯を買って帰った。

 被災者のために自分ができることをしたい。その思いはあるし、聞かれたらそう答えるだろう。買い物をするたびに、レジ横に募金箱があればお釣りを入れることもやっている。だが最も簡単なことは、被災地でないところに住んでいる自分は、落ち着きを失わないことだと思う。そしてさらに言えば、なるべく節電と節約に努めて、被災者たちの命の綱を少しでも太くすることだろう。何か特別なことをするのは、その後だ。
 テレビを見ていると、被災者のほとんどが最後に「ありがとうございました」と言う。あの、心からの「ありがとう」は、何も取材チームに向けられたものではなく、直接にも間接にも、災害にあった今の自分たちを支えてくれているすべての人に対するものだと思う。その中には(すごく間接的ではあるが)、僕たちも含まれるはずで、それに応えなければ申し訳ない。

 昨日3月15日から1週間、レッズはチームをオフにした。当面、ナビスコ杯の2節までとリーグ戦の第3節が中止となった決定を受けてのことだ。リーグ第4節、レッズは4月2日(土)のホーム川崎戦が開催されることを前提にしての措置だ。
 この時期にサッカーをやっていていいのか。そういう考えもあるだろう。しかしJリーグが再開されたとき、人々を楽しませる素晴らしいプレーをしなくてはいけない。そういう難しいバランスの中で、準備を怠ってはいけないのも選手の仕事だ。
 正直言えば、4月2日(土)から、リーグ戦がそのまま再開されると僕には思えない。リーグ戦に参加不可能なクラブを外して行う。開催試合のチケットには義援金を含む。ナビスコ杯をチャリティー大会に組み替える。期間を短縮して93年のような水曜、土曜開催にする。ホームorアウェイにして試合数を減らしナイターをなくす…。
 思いつくまま挙げたが、関係者はその何十倍もの想定をして、いま懸命に善後策を練っていることだろう。だが災害はまだ続いていると言っていい、この時期に結論は出せないと思う。
 僕自身は、まずは3冊目の幻になるかもしれないMDP4月2日号の準備をしっかりするだけだ。
 それと、ふと険しい顔(ふだんからそう言われるが)になっている自分に気がつくことがあるが、これからは意識して笑顔でいようと思う。昨日、大原で啓太から最後に聞いた言葉、「いつまでも暗い顔をしていても仕方ないと思う。そういうことが頭から離れないということはあるが、これからはしっかりと笑顔を意識したいと思う(要旨)」を聞いて、そう思った。

(2011年3月16日)
(2011年3月16日)
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