Weps うち明け話
#297
状況の優位と勝敗
 ようやく1試合だけ見つけた。
 98年10月24日。第2ステージ第10節、駒場での札幌戦だった。前半41分に土橋正樹が2回目の警告で退場。スコアはその時点でまだ0-0だったが、最終的にレッズが2-1で勝った。0-0の時点でレッズが10人になり、その後得点して勝った試合って、これまであっただろうか?と思って、イヤーブックをめくっていったら、やっとあった。ただし、最近遠視(老眼)が出てきたので、見落としがあるかもしれない。
 実は、感覚的には先日、7月23日(土)の甲府戦が初めてのような気がしていた。そんな劣勢の中で先制し、勝つなんて何物にも代えがたい喜びのはずだから覚えていないはずがない。たとえば0-2とリードされた時点で闘莉王が退場となり、その後同点に追いついた05年の鹿島戦のように。

 逆なら鮮明に覚えている。03年第2ステージ第13節、アウェイの清水戦。0-0から相手の澤登と高木が退場となる絶対の優位になり、残りは15分くらいあったのに得点できず、逆に2人も少ない相手に決勝点を奪われた。まだある。07年第33節の鹿島戦。前半の終盤、相手の新井場が退場となったが、やはり数的優位を生かせず後半先制され、そのまま0-1で敗れた。
 前者の清水戦は、勝てばステージ優勝に王手がかかり、引き分けでも残り2試合に勝てばいい、という状況だった。後者の鹿島戦は、勝てばもちろん、結果的には引き分けていてもリーグ2連覇が決まっていた。そんな大事な試合で、相手が少なくなりながら勝てなかったのだから、おそらく一生忘れることはできないだろう。

 98年の札幌戦は、10人になった直後、42分に石井が先制ゴールを挙げている。その後、後半39分に追いつかれているのだが、ロスタイムにチキが決勝ゴールを挙げて勝っている。数的不利の状況でタイスコアという時間が短かったから記憶に薄かったのかもしれない。
 今季の甲府戦は、前半12分という早い時間に10人になったにも関わらず、ロスタイムを含めて80分以上を守り切り、こちらが得点して勝ったという、レッズの歴史の中でも記録に残る試合だ。しかもレッズにとっては、森孝慈さんの追悼試合とも言える大事な一戦だった。そんな試合で退場してしまった加藤の無念さが思いやられるし、その退場になった飛び出しは失点を防ぐために止むを得なかったナイスプレーとばかりに、引き上げてきた加藤をねぎらうリザーブメンバーたち、そして「任せろ」と言わんばかりに加藤と抱き合ってピッチに入った山岸の気持ちも、見ている僕にしっかり伝わってきた。
 しかし、まだ前半の12分。最近“お家芸”になった(笑)ドローに持ち込むにしても、後が長い。とりあえず前半を0-0で乗り切れば、何とかなるのではないか、と思っていたが、その前半のうちにビッグピンチ(?)が2回もあった。そこで入らなかったのは、ようやく今季のレッズにも運が味方してくれたのではないかと思う。この試合では、運よりも強い味方があったようにも思うが。

 そして後半の平川の得点。今季、平川がシュートを狙ってゴール前に入ってきたという記憶がない。結果的に、相手DFのクリアをうまくブロックして、それが入ったという形だったが、柏木のパスに反応して走り込んだのだから、狙っていたことには違いなく、思えば10人になっていなかったら、あのプレーはなかったのではないか。前線にもう1人いれば、柏木もいつもどおり、左サイドに縦パスを送るか、右にサイドチェンジするか、していたかもしれない。もともと意表を突くプレーが得意な柏木だが、少なくとも平川にシュートさせようという選択肢は、通常ならかなりプライオリティーが低いのではないか。1人足りないのだから、通常とは違う動きが必要だし、通常よりも多い役割をこなさなくてはいけない、そういう柏木と平川の思いが、あの先制点になったような気がする。言い換えれば、10人だったからこそ、生まれた得点、と。
 数的優位の時間が長かった甲府。前回、J1で戦ったときには、中盤の選手たちがすごく動いてパスを回し、主導権を握るチームだった印象がある。あのチームだったら、もっと多くの得点機を作られていたかもしれない。そこにパウリーニョやハーフナーがいたら、と思うとゾッとする。

 状況の優位は、そのままでは優勢とはならないし、ましてや勝利に結びつくとは限らない。あの甲府戦で、あらためてそれを実感し、「7年前の7月24日」というコラムをオフィシャルサイトに書いた。04年のナビスコカップで、予選リーグ突破へ絶対優位な状況にあったジェフを2試合連破したエピソードだ。
 今季のナビスコ杯1回戦第2戦を前にして、第1戦2-0という優位な状況で臨むレッズにピッタリの話だと思った。実際、27日(水)の試合でレッズが油断していたとは思わないが、相手の山形はいつものように後ろを固めつつも、ふだんよりは点を取りに来ていた。そして1点を失ったのだが、そこでバタバタせず0-1で前半を終わったことで、優位さを保ったままで後半に臨めた。思えば第1戦で原口が挙げた後半ロスタイムの1点が大きく利いたと言える。
 そういう意味では、優位な状況を勝利に結びつけた試合、と何とか言えるのではないか。
(2011年7月29日)

EXTRA
 すでにリーグ戦は後半に入っているが、甲府との試合を終え、ようやく全部のチームと一当たりした。これからの16試合は、すべて前回の対戦が良くも悪くも参考になる。まずは記憶に新しい川崎との再戦。リーグ戦では等々力で負けていない、などというのは“優位な状況”でも何でもない過去の話。順位表の9位と10位の間を川のように隔てる勝点差4を埋めるためには、「負けない」では足りないのだから。今季初のリーグ戦連勝を。

(2011年7月29日)

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