Weps うち明け話
#313
比べると濃淡がはっきり
 赤の色合いについては、他の色よりも敏感だと思っているが、たとえば日常の街中で、鹿島アントラーズか名古屋グランパスのレプリカを着た人が歩いていたとして、ロゴマークなどを見ずに、どこのチームのものかすぐに判別できるだろうか。
 Jリーグがスタートした当初は「エンジ」「朱色」と表現して間違いではなかった、この2つのチームのユニフォームは、シーズンによっては、ずいぶんレッズの赤に近いときもあり、1つを見ただけではわからないかもしれない。だが試合日のように両方を見比べられれば判別はできる。
 色の濃淡とか音の高低は、絶対感覚を持っている人なら単独で見聞きしても判断できるのだろうが、普通は比べてみないと微妙な違いまではなかなかわからないのだろう。

 リーグ最終節は、柏の方が力はあることはわかっていた。よく「勝ちたいという気持ちの強い方が勝つ」という言い方をするが、それは両方の力がほぼ拮抗しているときの話だ。強い気持ちがなくては勝てないと思うが、気持ちがあっても力が伴っていなければやはり勝つことは難しい。
 柏は、首位にいる期間が長く、ずっと優勝を視野に入れて「厳しい戦い」に勝ってきたチーム。レッズは残念ながら、ほぼシーズン通して真ん中より下にいて、残留争いという「厳しい戦い」をしてきたことは一緒だが、そこでなかなか勝てないから最終節で15位にいるチーム。そんな両チームの力の差が、勝ちたいという気持ちだけで埋まってしまうほど甘いものではないだろう。
 そして「勝ちたいという気持ち」も柏の方が勝っていたように思う。
 レッズも「残留争いからほぼ解放されて実力が出せる」「ずっと悔しい思いをさせてきたファン・サポーターに良い思いを」「天皇杯と来季につながるような試合を」と選手たちは口々に言っていたし、それはウソではなかったはずだ。取材していて、選手たちからは強い気持ちを感じた。だが、それは浦和、鹿島、名古屋のユニフォームを1つだけ見て、どれがレッズのものか当てるようなものだった。もし僕が別の日に柏の練習を取材に行ったとしら、やはり選手たちから優勝への強い気持ちを感じたに違いない。
 さて、どっちの気持ちが強いか、と言われても首をかしげただろう。実際に戦ってみないとわからない、と(気合で「レッズに決まってる!」と言ったかもしれないが)。

 実際の試合では、優勢に立っているからよけいに、柏の前へ前へという自信を持った姿勢が目立った。前半だけでチーム力の差と気持ちの差――個々で見てもわからない濃淡の差――をはっきりと感じてしまった。
 だが、実際の力どおりにならないこともあるのがサッカー。後半8分の柏木のゴールは、ヘディングシュートとしては遠い距離からだったがコースが良く、見事に決まった。運もあったかもしれないが、こんなまま終わってたまるか、という柏木の強い気持ちをヒシヒシと感じた。ボールがちょうど写真を撮っている僕の方へ向かってきたから、なおさら気持ちが伝わったのかもしれない。
 そして、長い時間ではないが、1点差になったあと、少しレッズペースと言える時間が続いた。あのときに、その流れで2点目を取れていたら、勝負は、そして優勝の行方はどうなっていたかわからない。
 そういうサッカーの醍醐味の1つとも言える要素もモノにできなかった残念な試合だった。

 2008年から4年連続、相手が優勝を決めるか大敗で終わったリーグ最終節。相手の優勝がかかるめぐり合わせは偶然としかいえないが、最終節4連敗は偶然ではないと思う(07年は、ちょっと違う気がするので除く)。
 先をはっきりと見るために、後ろをしっかり検証する。そういう作業は今の時期しかできない。後ろや今をしっかり検証せずに、先のことばかり見ていたから、目標や手順が曖昧なままスタートしてしまった。そんな4年間だったように思うからだ。
(2011年12月9日)
EXTRA
 前回から1か月経ってしまいました。来週、上記について自分の考えをまとめてみます。
(2011年12月9日)
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