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Weps うち明け話 #1052

浦和の男だから(2020年11月27日)

 

 今日、12時過ぎから大槻監督の試合前定例リモート記者会見が行われた。会見の冒頭で出た2つの質問に大槻監督はこう答えた。質問の内容を加味して言葉を足してある。

 

「残り4試合で、レッズが『勝利する』という意欲にあふれた集団であることを見せないといけない」

 リーグ戦の残りを、良い内容と結果の試合にすることは、もちろん応援してくれているファン・サポーターやホームタウンの人たちに対する責任でもある。しかし大槻監督の言葉からは、まるでこれからチームが何かのプレゼンテーションに臨むかのような印象を受けた。

 

「鹿島とは通算の対戦成績で下回っているし、節目の試合で負けていることが多い。またタイトル数でも高い位置にいる。この相手にレッズがしっかり上回るところを、毎年の対戦で見せていかないといけない」

 29日の対戦結果がどうあっても、通算対戦成績の勝敗がひっくり返ることはないし、鹿島のタイトル数をレッズのそれが上回るわけではない。それを果たすには、この試合を含め何年もの時を刻む必要がある。

 

 そりゃ、今季で契約満了になる監督のコメントじゃねえだろ。

 と、ツッコミたくなった。だって来季以降も指揮を執る人の決意表明のように聞こえたから。

 

 それも不思議はない。大槻毅とは、常に浦和レッズというクラブのことを第一に考えている男なのだ。

 スカウンティングや分析で04年からの数々の優勝に貢献し、ユースの監督として、またアカデミーの統括として、レッズのトップチームで、あるいはプロ選手として活躍できる選手を育成してきた。

 そして2018年に暫定監督を務めた際には、次期監督へチームを最良の状態で渡すためにできる限りのことをした。GKを除く全選手を試合で起用することで、選手のモチベーションを維持し、コンディションを上げ、競争心を高めた。また、これまでとの違いを出す手段の一つとして、自分のキャラクターも変えて現れた。そのあたりは、このコラム#961~965に詳しく書いた。

 

 記者会見では、「契約満了の件を選手にいつ、どのように伝えたか」という質問も出た。その答えは聞かなくても想像がついた。

 2018年4月21日、Jリーグ第9節・札幌戦。暫定監督として最後の試合に臨むとき、「組長最後の日」とか「アウトレイジ最終章」などとも言われ、自分のラストゲームであることに注目が集まっていた。それが選手のパフォーマンスを上げることにつながるなら、喜んでそれを強調しただろう。僕もそういう想いになっていたが、あのとき暫定監督はこう言っていた。

「清尾さん、俺の監督としての最後の試合だとか、そんなことはどうでもいいんだよ。一番大事なことは、この試合で浦和レッズが勝点3を取ること。選手たちがそのために全てを出し切ることなんだ」

 今回も、それを一番大切にするよう選手たちに伝えたはずだ。

 

 そして「どんな環境でも、自分たちの力をすべて出し尽くすことが、ここ(レッズ)にいる者の責任」だということを選手たちに言い続けたという。

 そう。その考えも前から知っていた。 

 2018年4月7日、Jリーグ第6節・仙台戦のMDP(538号)監督メッセージ。初采配のルヴァンカップ広島戦がスコアレスドローながら、相手の城福浩監督が「相手(レッズ)のモチベーションが高かった」と語ったことにふれ、

「あの試合が特別なものであってはいけません。(中略)監督が替わった試合だからではなく、いつも運動量が多くなければいけないし、いつも球際で強くなければいけないし、いつも大きな声でコーチングをしなければいけません」

 と言っている。

 今季から強調されている「浦和を背負う責任」について、大槻監督は当時から選手たちに訴えていたのだ。その仙台戦の前に、こう言ったという。

「勝っていても負けていても同点でも、どんなに苦しい状態でも戦いなさい、走りなさい。そうすれば、この埼玉スタジアムは絶対に我々の味方になってくれる。そういう姿勢を見せずして、応援してもらおうと思うのは間違っている。ファン・サポーターのみなさんは、選手たちが戦うところを見に来ているし、浦和レッズのために何かをやってくれるところを見に来ている。埼スタが熱く応援してくれているのは、我々が戦っている証だ。それだけは絶対に忘れてはいけない」(MDP539号 監督メッセージより)

 

 浦和レッズの監督に必要な要素は少なくないが、浦和レッズを理解し、深い愛着を持っているということでは、歴代19人の監督の中でトップクラスだろう。

 だから残っている4試合を「やめる監督」として戦うはずがない。それは「プロだから」「契約を全うする」というのとは質が違う。

 

 彼が「浦和レッズの大槻毅」だからだ。

 

(文:清尾 淳)