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Weps うち明け話 #1133

次は「○○→24→ゴール!」と(2022年5月25日)

 

 前節、5月21日の鹿島戦。後半21分、柴戸から斜めの縦パスを受けて、キャスパーにスルーパスを送った選手がいた。残念ながら少し弱かったのでキャスパーがDFを抜き切るのに時間がかかり、シュートは枠をとらえられなかった。

 その場面ではキャスパーのシュートに注目していたので、後からメモることになる。「15→22→」と書いて、「今のラストパス、誰だ?」と一瞬迷った。あの位置にいる可能性があるのは、江坂、岩尾、敦樹…ではないから、宮本優太か!

 すぐにわかったのだが、消去法だった。

 

 大卒ルーキーの宮本はスーパーカップ川崎フロンターレ戦で途中出場。Jリーグ第2節のガンバ大阪戦で先発した。さらに第7節の清水戦で途中出場した。その後、ACLグループステージで3試合出場し、大学の同期である安居海渡のゴールをアシストした。着々と階段を上りつつある。

 上下動を繰り返せる右サイドの選手として、クロスや深い位置でえぐる場面は印象にあったが、インサイドに入ってチャンスを作るというシーンはそれまであまりなかったように思う。僕がしっかり見ていなかったのかもしれないが。

 

 本人に、鹿島戦で一番自分が気に入っているプレーを尋ねると、正に冒頭のシーンだった。

「もう少し勢いのあるパスを出せたらゴールにつながっていたかな、と思います。ああいうプレーは自分に求められている部分で、自分の中ではレッズに来てできるようになったプレーの一つなので、今までの練習の成果が出たのかなと思います」

 試合の前半は多少、余裕のなさも見えたが、徐々に落ち着きを得て、後半はサイドだけではなくプレーエリアを広げていた。

 

 一般的に言えることだが、練習でできても公式戦となるとまったく違う条件が加わってくる。

 たとえばスタンドの埋まり具合。この日の、3万7千人を超える入場者は、埼スタでは2019年の最終節以来の入りだった。それどころか今シーズンのJリーグでも、1万人が無料招待された国立競技場での試合を除けば、今季最多入場者だ。

 宮本は「ピッチに入ったら緊張などはなくなったが、先発を言われたときは、あの埼スタが多くのサポーターで埋まると聞いて、その中でプレーしたらどうなってしまうんだろうと緊張感を覚えました」と明かしたが、単純に言えば、あの日の埼スタでできたのだから、もう日本中に怖いスタジアムはないだろう。

「今までの指導者や友人から『あの中でできたのは自信になると思う』とメッセージをもらいました。鹿島アントラーズというチームを相手に、あの大観衆の中で、プレーできたのは自分にとって大きいことだと思います」と本人も語っている。

 

 また相手の対抗心も公式戦では違ってくる。

 もしかしたら、「対抗心」と、きれいに言えばレッズでの紅白戦の方が強いかもしれないが、公式戦ではそれに「敵がい心」、また相手も自分たちのサポーターに背中を押されているという意識が加わってくる。

 さらに悪意さえあるかもしれない。特に鹿島のように、相手のフリーキックのたびにわざわざボールを拾ってから離れ、再開のタイミングを遅らせるとか、相手のPK時にキッカーに対して何やら話しかけるとか、相手ボールのスローインの際、ボールボーイと同じタイミングで2個目のボールをピッチに投げ込み、リスタートを遅らせるとか、そういう「駆け引き」では日本一うまい相手との対戦を経験をしたのだから、今後に生かして欲しい。もちろん、それをやれというのではなく、そういうことにイライラしないで自分のプレーをやる、という意味で。

 

 まだ個人としての結果は出ていないし、右サイドの定位置を確保したわけではない。しかし、先発候補としてリカルド監督を悩ませる存在になったのではないか。

「いつまでもルーキーではいられません。レッズの一員として、大卒1年目だと思わせないような落ち着きやプレーの質を見せていかないといけないと思っています」

 と語る宮本。僕がもう一つ期待しているのは、右からカットインしての左足シュートだ。鹿島戦では相手のプレッシャーが強くて、なかなか良い位置に入り込めなかったが、それを意識して練習しているのは知っている。

 

 今日のセレッソ大阪戦では、僕も迷いなく「○○→24→○○」とノートに記すだろう。

 そして、その後に「ゴール」と書きたい。

 

(文:清尾 淳)