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Weps うち明け話 #1134

若者の背中を押すもの(2022年6月20日)

 

<大久保智明の場合>

 

「交代のとき拍手が大きかったのでびっくりしました」と大久保智明が語った。

 6月18日(土)の名古屋グランパス戦で今季リーグ戦先発。73分、松崎快と交代する際にスタンドから送られた拍手のことだ。

 

 この日は右のサイドハーフに入った。後ろの宮本優太と試合前にこう話していたという。

「僕らは年齢的にも若いんだから、様子をうかがうとかは、要らないよね。ガンガン行って疲れたら交代すればいいから」

 その言葉どおりガンガン攻めた。10分、ショルツの縦パスを受けると前へドリブル。名古屋のチェックをテクニックでかわし、そのままシュートまで持って行った。20分にはCKのこぼれ球をミドルシュート。相手DFがクリアしてまたCKになり、それがショルツの先制ゴールとなった。28分にもドリブルで相手をかわしながらゴール前まで運び、今度は右足でシュート。これもGKに弾かれたが、前半のうちに枠内シュート3本と、チームの攻撃の先頭に立っていた。

 その後、前線まで運んでから左の江坂に渡すと、そこから関根のゴールにつながった。

 ゴールや直接のアシストはなくても、この名古屋戦での大久保の貢献度は見ている者の誰もが認めるところだった。

 

 しかし後半、疲労が足に来た。

「守備に戻れなくなってきました。ミヤ(宮本)からは『がんばれ』と言われましたが、がんばる気持ちはあっても、このままだと戦力ダウンになってしまうから、交代した方がチームのためだと思いました」

 冒頭の大きな拍手はそのときのものだ。

 ルーキーだった昨季、途中出場で勝利に貢献したことはあるが、先発した試合ではあまり結果を残せなかった。今季も5月18日の横浜F・マリノス戦でキャスパー ユンカーの3点目をアシストしたが、それも途中出場。先発で大きな仕事をして満場の拍手で交代するのは初めての経験だったのだ。

 

 何かこれまでと変わった部分はあるのだろうか。

「特に変わったところはないですけど、ゴールに向かう姿勢というのを出していかないと点は取れないと思っていたし、90分持たせる気がなかった、ということですかね。

 マリノス戦のアシストだとか、ここ最近の練習の中で、ボールを持ったらやれる、という自信があったので、極論ですけど、全部(勝負に)行っちゃえばいい、というみたいな気持ちです」

 

 自分の最も強い武器はドリブル。攻撃的なポジションで出たら、それを生かしてやろう、というのは選手として当然の気持ち。分かれ目になるのは、ボールを持ったとき、それを躊躇なくプレーに移せるかどうかだ。一瞬の遅れがチャンスを潰すことにもなりかねない。大久保のギアは常にD(ドライブ)に入る準備ができている。

 

<宮本優太の場合>

 

 公式戦5試合連続先発。右サイドバック(ウイングバック)の宮本も、ゴールへの直接のアシストはなかったが、あと一歩という場面を何度かつくった。

 開始49秒、明本の落としを受けると、明本が走り出すのを待って右クロス。DFにクリアされたがミスキックを誘い、この試合最初のCKになった。

 4分には、江坂のロングクロスをゴール右でヘディングシュートした。

「ボールの落下地点が見えたんですけど、そこに相手の相馬(勇紀)選手がいました。それで回り込んだんですけど、ボールが少し流れて変な格好でのヘディングになってしまいました」

 

「自分のサイドの相手が、評価の高い相馬選手だったので、ここで自分の価値も上がるか下がるかどっちかだと思って、相手にビビるというよりはやってやろうと思っていました。そこのマッチアップでは良かったと思っていますし、そのほかの場面でもゴールやアシストはなかったですけど、攻撃参加などはできたかな、と思っています」

 

 41分には、相手ゴール前のスペースへロングクロスを送り、走り込んだ関根がヘディングシュート。決まっていればダイナミックなゴールシーンになっていた。かと思うとその1分後には、ハーフウェイライン付近でボールを持つと縦にドリブル。周囲を江坂、明本、敦樹が走っており、誰に出すかと注目されたが、果敢に自分で突破を図り、相手3人に囲まれ阻まれた。

「アタルくん(江坂任)に出そうかとも思ったんですが、そのとき尚史さん(土田尚史スポーツダイレクター)の『やっちゃいな』という言葉が頭に浮かんできて、やっちゃおう、と思いました。抜けると思いましたよ。でも足を蹴られて倒されました。あれはファウルだと思います。次は抜きます」

 

 また守備では「トモくん(大久保智明)と敦樹くんと3人でコミュニケーションを取りながら守備をやれたので、自分がガッツリ1対1でやった場面というのはあまりなかったです。みんなで一体感を持ってやれたのが良かった」と語るが、決定的な場面もあった。

 60分、大久保、伊藤とつないで宮本が右クロス。わずかに明本に合わなかった。その直後、名古屋のマテウスが右サイドをえぐって折り返したところを阿部浩之がシュート。スライディングで止めたのは宮本だった。

「マイナスのパスが来るだろうと思っていました。逆サイドからわりと冷静に、相手もコースも見えていたので、体を張らないとダメだと思いました」

 1点モノの場面を防いだと言っていいだろう。

 

 しかし、86分に足をつってピッチに倒れ込んだ。交代人数としては1人残っていたが、交代回数の3回は終わっていた。

「タクさん(岩波拓也)に『もう交代枠ないよ』と言われて、やるしかないな、と思いました。

 トモくんが「きつい」と言ったときに自分もけっこう足に来てて、変な動きをしたらつるな、とわかっていたんですよ。でも自分は弱音を吐いたらダメだと思っていて『ラストがんばれ!』と言っていました。気持ちだけでやっていた感じだったんですが、最後につってからはしんどかったです」

 

 しかし、最後までピッチに立ち、今季スタンドでしか味わっていない、埼スタでの勝利の瞬間をピッチで迎えたときは最高だっただろう。

 サイドの選手にケガ人が出たことで自分に出番が回ってきているから、そろそろタイムリミット、と試合前には語っていたが、この名古屋戦の出来は、その危機感だけが生んだものではないはずだ。

 

 2年目の大久保とルーキーの宮本。新しい力の台頭がチームを活性化している。その背景には、ミスを恐れず思い切ってやれ、と背中を押すチームの雰囲気があるようだ。

 水曜日の天皇杯ザスパクサツ群馬戦、日曜日のヴィッセル神戸戦と、続けて結果を出していくことで、さらに前への推進力が強くなるだろう。

 

(文:清尾 淳)