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Weps うち明け話 #1166

壮行会(2023年4月24日)

 

「あの歌はACLで聞いていたので、そうなのかな、とは思いながら聞いていました」

 4月23日(日)の川崎戦でJリーグデビューを果たした早川隼平は、そう答えた。

 レッズサポーターが個人でなくチーム全体を応援する歌の中にも「この歌はこういうときにやる」というものがある。それを選手が全部覚えていることはないだろうが、その中で「赤き血のイレブン」から始まる歌がACLに向けたものだということは知っている選手が多いと思う。早川の言うとおりだからだ。

 

 公式戦3試合目となったこの日の出場がJリーグデビューだったことは、試合後チームメートに言われて知ったという早川。4月5日(水)の公式戦デビューと同じ、等々力での川崎戦だったというのも興味深い巡り合わせだが、あのルヴァンカップ第3節とは違い、このJリーグ第9節では左サイドでボールをキープすると前の荻原につなぎ、リンセンの同点ゴールに絡んだ。また4月19日(水)の公式戦2試合目、ルヴァンカップ第4節の湘南戦は埼スタデビューだったが、それよりもレッズのJリーグ公式戦ゴール最年少記録を更新する活躍をした。

 

 誕生日が2005年12月5日だから、今シーズンの足跡のほとんどが17歳のうちに残す記録となる。レッズで過去にそういう選手も少なくないが、17歳でACLの決勝に出場した選手はまだいない。これまでの試合を見たサポーターはもちろん、マチェイ監督もチームメートも、早川は点が欲しいときに投入すれば何かをやってくれる、と思っているだろう。

もしもリヤドのピッチで早川が躍動すればレッズのACL最年少出場となるし、得点の香りが増すだろう。それを想像するとワクワクする。

いま本人は自分のゴールを最優先するのではなく、チームが勝つためにプレーしている。自分がユース所属の特別な存在と見られていることももはや意識しておらず、浦和レッズの一員として貢献したいという気持ちだけのはず。

もし出場することがあったら、その自分の思いだけを100パーセント出し尽くしてほしい。

 

 伊藤敦樹も「試合が終わった後の声援を聞いてACLに向けて切り替えられたというか、これから決勝だなという感じです」と語っていた。

 今季、公式戦13試合にすべて出場。そのうち11試合が先発で9試合がフル出場という鉄人ぶりだ。

「タフに戦えている実感はある」

 見ていてもそういう手ごたえを感じる。川崎戦では前線のハイプレスと連動して、相手からボールを奪いショートカウンターの起点になる場面が目立った。サウジアラビア代表が居並ぶアル・ヒラルに対し、局面で数的優位を作るのに欠かせないのが敦樹のプレーだ。

 ルーキーイヤーの2021年、天皇杯で優勝。そこでACL出場権を獲得し、昨年のグループステージ4試合とノックアウトステージ3試合に出場して、チームがファイナリストとなるのに貢献している。今回は3年越しの大会となったが、敦樹もすべて共に歩んできた。

 

 2007年ACL決勝は、小学生。埼スタのスタンドで応援していた敦樹が、今度はおそらく先発として、そのピッチに立つ。本人の喜びもひとしおだろうが、ずっと見ている側としても感無量だ。もちろんピッチに立つだけではなく、2007年に上げた歓喜の声をスタンドではなく、ピッチで上げる。そのために戦ってほしい。

 

 過去のACLとの対比で言えば荻原拓也もピックアップしなくてはいけない。

 これに関しては、レッズ・トゥモロー編集長の矢内由美子さんの記事を読んでもらう方がいい。

 https://web.gekisaka.jp/news/detail/?382866-382866-fl

 

 矢内さんは、2019年の荻原の姿をずっと記憶にとどめてきた。遠征メンバーが発表されているわけではないが、川崎戦の後のオギを見てうれしかっただろう。

 今季、戻ってきたオギの特長を個人的に言わせてもらえば、闘志を空回りさせずすべてプレーにつなげている、ということだろうか。力が入りすぎて狙いとずれる、ということが少なくなり、状況に応じたプレーができていると思う。それが川崎戦の同点ゴールにつながった。早川からパスを受けてダイレクトでリンセンにクロス。そのスピードは、リンセンがダイレクトでシュートするのに難しくないものだった。

 今季、C大阪戦や神戸戦で、左サイドをえぐってマイナスのクロスを送り、リンセンが中で合わせきれなかった場面があった。どちらも1点ものの場面で、本人も当時「あれは決めてほしかった」と語ったが、川崎戦のアシストは、そのときよりも打ち手のことを考えての優しいパスだったというのは考えすぎだろうか。僕は、2年半の期限付き移籍で大きくなって帰ってきたオギが、今季開幕してからさらに成長していると感じている。

 サウジで外国勢と対戦して、さらに変化して帰ってくることを期待している。もちろん結果も出して。

 

 川崎戦は前半のアディショナルタイムが実質30秒ほど、という密度の濃い試合だった。勝てなかったことは残念だが、見事な連係で同点ゴールを生み、さらに攻め続けた。試合として素晴らしい内容だったと思うし、選手たちにとっても悔しさと手ごたえを同時に感じた試合だっただろう。

 それを次への闘志に100パーセント変化させたのが、試合後のゴール裏から発した「赤き血のイレブン」だったと思う。早川が「あの声量は初めて感じるもので、鳥肌が立つぐらいでした」と語るほどの迫力があった。歌うサポーター一人ひとりを見た選手たちは、その表情に何を感じただろうか。

 試合も、試合後も、最高の「ACL壮行会」となった。

 

 と思っていたが、壮行会はまだ終わっていなかった。選手バスがスタジアムを出発したのは試合の約1時間後だったと思うが、ゴール裏のあの情景が、等々力競技場の周りで再現されていた。大勢のレッズサポーターが旗を振り、歌ってバスを送り出した。19時半ぐらいだっただろうか。

 長い壮行会だった。

 

EXTRA

 川崎フロンターレは、試合後クールダウンのためにピッチを使わせてくれた。行程は明らかになっていないが、ここでクールダウンしているということは、そのままサウジ遠征に出発するということだろう。また川崎はクールダウン中にビジョンで激励までしてくれた。本当に感謝したい。またレッズのゴール裏から「赤き血のイレブン」が歌われているとき、反対側の川崎サポーターの大勢が、それに合わせて手拍子をたたいているようにも見えた。

 日本の代表としてアジアの決勝を戦うんだと感じた。

 

(文:清尾 淳)