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Weps うち明け話 #1169

オギを育てたのは(2023年5月30日)

 

 先日、京都のサンガスタジアムで仕事を終えて帰るころ―、だから22時半ごろ亀岡駅を出る各駅停車に乗った。

 しばらくすると、すぐ近くの4人掛けの席から会話が聞こえてきた。見ると片側に京都のユニフォームを着た2人が、反対側に赤いユニの2人が座っている。この時間のこの路線では特に珍しくない光景で、おそらく車両の乗客半分以上がどちらかのサポーターまたは関係者だったろう。

 

 すると、こんな言葉が僕の耳に入ってきた。

 「オギは京都が育てたんやから」

 

 荻原拓也は京都サンガが育てた。

 

 「いやいや。オギは浦和レッズが育てたことに間違いないから」

 浦和の人間としては、そう反論したくなるところだが、そこでしゃしゃり出るほど僕は若くない。そのまま黙って聞いていた。とは言っても耳を澄ませていたわけではない。その人の声はたぶん車両の半分くらいまでは届いていたのではないだろうか。

 結局、京都駅に着くまでの二十数分間、その人はしゃべり続け、隣の京都サポと向かいのレッズサポ2人は、相槌をたまに打つくらいでほとんど聞き役だった。たぶん、レッズサポは知り合いではなく、たまたま電車の中で向かいに座ったというだけなのだろう。

 

 「オギは京都が育てたんやから」

 

 100パーセント正しいとは言いたくない言葉だが、その人の荻原への愛情や選手としての高い評価が背景にあることが、聞いていてよくわかったので、反論する気持ちは失せていった。まあ正確に言わせてもらえば「荻原拓也をプロ選手に育てたのでは浦和レッズだが、Jリーガーとしてここまで成長させたのは京都サンガだ」ということではないだろうか。

 

 そんな出来事が27日の夜にあり、昨日29日には荻原のオンライン囲み取材があった。その中で彼がこんなことを言っている。

 

 「期限付き移籍先でどれだけチームを好きになってチームに貢献できるか。片足ではなくしっかりと両足を突っ込んで、そのチームのために年間を通して戦えるか、そのチームのために全力でプレーすることが期限付き移籍する選手にとって一番大事なことだと思います。完全移籍ではないので難しいメンタリティーだと思いますが、それを完全移籍に近いメンタリティーでやれるかが大事だと思います」

(抜粋して要約。詳細はオフィシャルサイトに掲載) 

https://www.urawa-reds.co.jp/topteamtopics/199451/

 

 これが、京都でオギが愛された理由だろう。電車の中で聞いた言葉が、多くの京都サポに共通した思いであることは、試合前の選手紹介での大ブーイングと、終了後、挨拶に行ったときの大拍手を見てもわかる。

 

 レンタルバックしてきた選手。特にレッズアカデミー出身選手が期限付き移籍から戻ってきたとき、いつも僕は願っている。

 今度こそ、お前こそ、レッズの中心になって活躍してくれよ。

 今のところ、オギは最もそれに近い位置にいる。だが、選手全員がベストコンディションでいるときに、必ず先発にチョイスされるまでにはなっていないと思う。本人も言っているが、まだ持っている力のすべてを発揮できていないし、それが結果に結びついていない。

 

 オギのポテンシャルの高さは彼を知る多くの人が認めるところだ。

 ただ、それは潜在能力であり、最高到達点だ。それが非常に高く、そしてたまに発揮されるから、期待度も高くなるのだが、押しも押されもせぬレッズのレギュラーになり、日本代表も目指すには、そのままではいけない。

 ほとんどの試合で出場機会を得ている今のうちに、潜在能力を顕在化し、最高到達点を平均点にしていかなければならない。

 できる、と思っている。

 

 もう、あの人の顔も覚えていないが、もし将来、京都サポから「オギは京都が育てたんやから」と言われたときに「そのとおりだと思います。そして、その後さらに飛躍させたのは浦和レッズです」と言いたいものだ。

 

(文:清尾 淳)