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Weps うち明け話 #1171

酒井宏樹の言葉(2023年6月30日)

 

 「取られないこと、ミスしないことが正義ではなく、ミスする可能性はあるかもしれないけど、そこのリスクと闘っていかないと、点は入らないと思います」

 6月28日に行われた湘南戦の前々日、酒井宏樹はこう語った。

 昨季までの2シーズンに比べて、今季は前への意識を強く持つことは、いわば「チーム是」として始動から言われている。

 ただし、しっかりチームとして実践されているかと言えば別で、まだまだボールを失うことを避けようとするあまり、無難なポジションにいる味方へのパスを選択することも少なくない。

 酒井はこうも言っている。川崎戦の前のルヴァンカップ清水戦、リードされて迎えた後半開始から酒井が出場し、チームの推進力が一気に高まったことについて聞いたのだが、その答えが以下のとおり。

 

「それはヨーロッパでは当たり前ですし、むしろそこで1人剝がせない選手は戦えない、と言われます」

 自分のプレーについて述べたものだが、見方を変えれば、ビルドアップの際に相手を剝がそうとしない選手を批判していると捉えられそうだ。いや、むしろそう受け止められてもいいと考えていたのかもしれない。この後、こうも言っているからだ。

「特にホームでは、自分たちが相手に圧を掛けないといけない。そこで圧を掛けられる選手が何人いるかと言われると、まだまだ足りないと思います。経験を積んで実践できるようになるまで、あまり待ってはいられません。試合を追うごとに、とか言うのではなくて、明日にでもできるように、みんなが努力していかなければなりません」

 シーズン半ばになって、これから成長を期待している暇はない。すぐにでも戦う集団になることをチームに求めているのだ。

 

 そして多くの人の思い違いを正す一言、あるいは誰もが思っていたけど言葉にしなかった一言をズバリと発した。

「浦和レッズは、クラブはビッグですけど、チームはまだビッグではありません。そこを勘違いしちゃいけないですし、チームをビッグにしたいなら、全力で勝てるようにしていかないといけないです」

 現役日本代表や代表経験者が先発だけでなくベンチにもひしめいている状況だった2006年や2007年は間違いなくビッグなチームだった。しかし、それからもう16年経ち、選手は全員替わっている。いまでも「浦和レッズは能力の高い選手がそろっている」と言われることがあるし、その言葉を積極的に否定する気はないが、では他のチームに比べてそうなのか、と詰められると、僕は「そう信じたい」と答えるだろう。

 

 酒井は決して、チームメートをディスっているわけではない。ただ現実をきちんとみよう、と言っている。そしてビッグになれる道を示している。それが「全力で勝てるようにしていかないといけないです」という言葉だ。

 またこうも言う。

「自分たちはライバルの何倍も何十倍も努力しないとチャンピオンになれないのかなと思います」

 逆に言えば、横浜FMや名古屋、神戸の何倍か何十倍か努力すればチャンピオンになれる。と言っているのだ。だから、努力しようよ、と。

 

 そして湘南戦。

 川崎戦でも攻撃的な姿勢は見せていたが、なかなか結果にはつながらなかった。湘南戦では得点も4点と多かったが、得点になりそうでならなかった場面がそれよりもあった。つまり、ビッグチャンスがみんな決まっていたら10点近く取っていてもおかしくなかったということだ。

 相手が鹿島とも横浜FC とも川崎とも違うということを差し引いても、酒井が言う「相手に圧を掛ける選手」が多かったし、「リスクと闘う」場面が多かったと言っていい。

 

 試合後の酒井はこう語っている。

「みんなかなり意識が変わってきたと思います。やはり、リーグを獲るためには点を取って勝たないといけないですし、そういう意識はチーム全体で共有できていたと思います」

 

 実は湘南戦の前には、こうも言っていた。

「リーグチャンピオンを目指すには、湘南戦で勝ち点3を取れないようなら、もうチャンスはない、という気持ちで戦わないといけません」

 まさにラストチャンスのつもりで臨んだわけで、その意気込みが結果につながり、まずは4試合ぶりの勝利を挙げたが、それで優勝争いに躍り出たわけではない。

「なんとかギリギリつないでるなという印象ですね。決して良いポジションだとは思わないですし、正直まだまだ優勝する全体的な戦力はないと思う。監督がうまくそれをオーガナイズしてつなげてくれているだけで、決してバランスの良い戦力ではまだまだないと思います」

 バランスの良い戦力、つまりもっと攻撃に重心を掛けることを望んでいる。

「リスクをかければ代償はもちろんありますが、得るものが大きいので、そこの駆け引きをしっかりしていきたい。正直、失点しなければいいわけですよ」

 右サイドバックとして守備での貢献はもちろん、チャンスメークもし、得点もする酒井だからこそ口にできる言葉かもしれないが、これがチームに共有されていけばシーズン後半は、失点数の少なさはそのままで、かなり攻撃的に変貌したレッズが見られるに違いない。そこに達するまでには、まだまだ酒井の厳しい言葉が必要かもしれないが。

 

 明日は鳥栖戦。アウェイで、ホームと同じ戦いをするのは難しいかもしれないが、変貌の兆しを消さないで欲しい。

 

(文:清尾 淳)