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Weps うち明け話 #1193

ここから歌い続けて(2024年4月1日)

 

 一列に並んだ選手たちを、左から右に双眼鏡で追いながら思った。

 そうか、周作と慎三以外は、ほとんど経験がないんだな。

 

 福岡戦のMDP製作のため、選手たちに話を聞いたとき、自分から「勝って、みんなで『We are Diamonds』を歌いたいです」と言ったのは佐藤瑶大だった。

 子どものころからレッズファンだった佐藤が「ウイダイ」を歌えることは不思議ではないが、この言葉は、かつて自分がスタンドにいてマフラーを掲げていたことを思い浮かべたものではなく、ピッチで選手たちが肩を組み、ファン・サポーターと共に歌っていた光景の、その選手の一人としての自分を想像したものだった。

 

 いやあ、でもコロナ禍の間にやらなくなって、去年もACL決勝のときだけじゃなかったかな。

 

 そう僕が伝えると、「え、今はやっていないんですか?」と、やや残念そうな口ぶりの佐藤だったが、今季はまだホームで勝利していなかったから、やるともやらないとも僕にはわからなかった。ただ佐藤が、それを楽しみにしていたことは間違いなさそうだった。

 

 あの「ウイニング・セレモニー」は、2012年に加入した槙野智章が選手たちに提案して始まったものだった。広島時代「お祭り男」として知られていた槙野がレッズで何をやらかしてくれるのか。僕も楽しみ3割、不安7割で構えていた記憶があるが、実際に始まってみるとすぐに受け入れられた。

 選手とサポーターが共に闘ってつかんだ勝利。その喜びを、それまでのレッズサポーターの慣習に沿った形で分かち合うのに、ベストの方法だったと僕は思っている。

 しかも試合中ずっと声を出して応援していたゴール裏のサポーターだけでなく、メーンでもバックでも同じ形で、同じ時間を共有することで、得られる一体感も非常に大事だ。スタンド全体でビジュアルサポートを展開するとき、一人ひとりがシートを掲げるのと共通するものがありそうだ。

 

 しかし2020年からのコロナ禍で、「We are Diamonds」をサポーターが歌うこと自体自粛しており、声出し応援が解禁になって勝利後のスタンドにマフラーの赤い波が揺れ,歌声が響くようになった昨季も、選手たちがピッチに残ってサポーターと共に歌うことは、56日のACL優勝以外に行われることはなかった。

 そして、その4年間に選手は入れ替わり、今季所属している31人のうち、西川、関根、興梠、宇賀神以外は、すべて2021年以降に加入してきた選手たちだ。

 

 そんな経緯があって、迎えた3月30日、福岡戦の逆転勝利だった。

 

 選手たちが場内を一周して、最後にメーンスタンドの北側の前で一礼。そのままトルシエ階段に姿を消すはずが、その場にとどまっているのを見て、こりゃやるな、と思った。

 そして、冒頭に戻る。

 

 もうすっかりレッズの中心を担っている選手たちでも、リーグ戦でこのセレモニーをやった経験のある選手はほとんどいない。だが、その中でも佐藤、前田、渡邊の3人が、どこか戸惑い気味の選手たちに比べてうれしそうに見えたのは気のせいではなかったと思う。

 ただ、佐藤も含め3人とも口はあまり動いていなかったのも事実。さすがの佐藤も記憶が薄れていたか。

 その中で、岩尾が口ずさんでいるように見えたのだがどうなのだろう。

 

 そんなにすぐに歌えなくても構わない。でも、ここから歌い続けて欲しい。

 

(文:清尾 淳)