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Weps うち明け話 #1095
平川忠亮引退試合(2021年7月19日)
7月22日の平川忠亮引退試合では久しぶりに印刷物としてのMDPが発行される。
有り難いことに今回も編集に関わらせてもらえたので、大事なことを再認識できた。
まず、浦和レッズがこれまで大小あわせて13のタイトルを獲ってきたこと。ACLや国内三大タイトルだけでなく、Jリーグや日本サッカー協会が主催する公式大会での優勝を数えると、そうなる。
そして、それ以上の数のタイトルを寸前で逃してきたこと。どこまでを「寸前」と呼ぶかは難しいが、カップ戦ならば準優勝、リーグ戦ならば1勝差の2位を数えると15になる。
ヒラがレッズに在籍した2002年から2018年までを切り取ると、獲得したタイトル13個はすべてその期間に入る。また逃したタイトルのうち2019年のスーパーカップとACLはヒラが引退してからだから、やはり13回がヒラと共にあった、と言える。
今回のMDPでは、獲った13のタイトルをヒラと共に一つひとつ振り返ってみた。昔を懐かしむためではなく、過去を知った上で新しい歴史を切り拓いていく糧にしたいと思った。当然ながらタイトル獲得には、今回参加するレジェンドをはじめ多くの先人たちの尽力があったことも忘れてはいけない。
次に、ヒラの現役時代の人柄やチームへの貢献エピソードなどを数多く紹介しているのはもちろんだが、それにとどまらず「平川コーチ」の紹介本のような性格が自然にできてしまった。もっと言えば「将来の監督候補・平川忠亮」のプロモーションブックになっているかもしれない。
引退試合というのは、本人へ感謝の気持ちを表わし今後の活躍を祈るものだと思うが、今回の場合「ヒラの今後の活躍」は、レッズがタイトルを目指すことに直結するのだ。言わば、現役レッズチームの壮行会も兼ねた引退試合なのかもしれない。
MDPはそこまでのものになっていないが、現役選手が読むことで「次は俺たちの手でタイトルを」というモチベーションにしてくれたら何よりだ。
さて。
7月17日は、森孝慈さんの命日だった(#296参照)。
2011年。訃報が届いたその日はアウェイ磐田戦で、絶対に勝ちたかったが1-1のドローだった。
次のホーム甲府戦は7月23日。埼スタの北門に森さんへの献花台が置かれた。試合は前半12分にGK加藤順大が、やむを得ない飛び出しで相手を倒してしまい一発退場。レッズは長い時間10人で戦うことになり、甲府の猛攻を受けた。
当時の順位は、ちょうどリーグ戦の半分を終えたところで3勝9分け5敗の14位。4勝5分け8敗で16位の甲府と勝点差1という、残留争いに巻き込まれるかどうかギリギリの戦いで始まったリーグ後半戦だった。
順位をひっくり返そうと必死の攻撃を続ける甲府だが、なぜかレッズのゴールは割られなかった。代わって入ったGK山岸範宏の奮闘もあったが、甲府がビッグチャンスに外すことも少なくなかった。甲府のシュートがゴールのバーに当たって跳ね返ったとき、僕は森さんが上からバーを押して枠を狭くしてくれたような気がした。
前半を0-0で折り返した58分、柏木陽介のスルーパスは少し長すぎたが、追い付こうとした平川忠亮が、相手DFの前に足を出し、クリアをブロック。ボールは大きな弧を描いて甲府のゴールに吸い込まれた。さらに73分に柏木が追加点を挙げ、劣勢の試合を2-0で勝利した。
それまで大量得点試合の駄目押し点が多かったヒラのリーグ通算7点目は、初めての先制点。それも後に残留争いの直接のライバルとなる甲府から勝点3を奪う決勝点となった。
今回、ヒラに現役時代のゴールについて尋ねたとき、この試合ははっきりと覚えていたし、「森さんが勝たせてくれたような気がした」と語った。ああ、ヒラも僕と、いや当時のクラブスタッフや埼スタにいたサポーターと同じ気持ちだったのか、とうれしかった。
ヒラの現役時代の思い出と言えば100人のうち95人が「2007年ACL準決勝第2戦のPK戦」を挙げるだろう。だが、この生涯唯一の先制ゴールもこの機会に覚えておいてほしい。
そして、この甲府戦のMDP391号。表紙は柏木陽介、そして中面の選手インタビューは平川忠亮だった。だから何? かもしれないが、もしかしたら森さんがMDPを見て、「そんなら、この2人に点を取らせてやるかのう」と助けてくれたのかもしれない。
EXTRA
そんな2007ACLのPK戦や、甲府戦のゴールのことも含めて、7月20日公開のYouTube「清尾淳のレッズ話」は「まるごと平川忠亮」の40分特別版です。チャットで受け答えもしますので、ぜひ公開時間(20時)からご覧ください。
(文:清尾 淳)