1. TOP
  2. サッカー人生ハーフタイム

土田尚史「クリア!の声が聞こえる」

第三部 ケガ、リハビリ、復帰

③ 複雑な思いの5連勝

 3月15日、日本に帰ってきた土田尚史は、その足でチーム付きの医師がいる川口市内の病院に向かった。そこで指示されたことは、1日も早い試合復帰を目指している土田にとっては、残念なものだった。

「しばらくは目に力が入るようなことは避けないといけない」

 手も足も何ともない土田だったが、軽いランニングしかできないことはオーストラリアの病院にいるときよりも、ある意味でつらかった。何しろシーズンは16日に開幕し、試合はどんどん進んでいるのだから。

 この年レッズは開幕戦から5連勝、というチーム始まって以来の好調ぶりを見せていた。前年の第1ステージで3位になった勢いはまぐれではなかった。

 しかしレッズのゴールを守っているのは自分ではない。チーム初の優勝を狙えるシーズンなのに、自分は出遅れている。

 ホームゲームは見に行ったが、一方で試合を見たくない自分がいるのも確かだった。チームが勝ってうれしくないことはないが、どこかで冷めていた。

「俺はここで何をやってるんだろう。ピッチの中にいるはずなのに…」

 後年、レッズがJ2降格の危機に瀕していたときは、キャプテンを務めていたこともあって、試合に出ていなくとも、常に行動を共にし「一緒に闘っていた」土田だったが、このときはまだ「チームのために」という気持ちにはなりきれなかった。

 ランニングをするために大原の練習場に行くときも、チームの練習時間を避けた。仲間が練習しているところを見たくなかったからだ。

 右目も完璧には戻っていなかった。瞳孔の反応が鈍く、視力も1.0はあったのが、0.3まで落ちていた。しかし身体のほかの部分はいたって健康である。自宅で自分を持て余す日々が続いた。

 5月。連休明けに医師からOKの許可が出た。

「よし復帰しよう」

 うれしい気持ちと、早くポジションを取り戻したいと焦る気持ちが入り交じった。

「落ちてる…」

 以前は捕れたボールが捕れなくなっていた。体力も昨年に比べてなくなっていた。

(続く)

 

(文:清尾 淳)