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- サッカー人生ハーフタイム
土田尚史「クリア!の声が聞こえる」
第三部 ケガ、リハビリ、復帰
⑥ 悔しさを飲み込み
現在レギュラーで活躍しているGK田北雄気の気が散るから、練習中に大きな声を出すな。
田北が安心してプレーできないから、一緒に練習しないでくれ。
オジェック監督にそう言われた土田尚史は、屈辱と怒りを感じた。
94、95年とレギュラーでレッズのゴールを守り、今年こそ優勝を目指そうという矢先に右目のケガ。チームの出だしは好調でずっと上位をキープしていた。そのメンバーに自分がいない寂しさもあったし、自分のポジションを長い間、奪われたままにしたくないという焦りもあった。
その気持ちが練習に表われ、いつも以上に大きな声が出て、張り切ってプレーするようになる。すべてはチームのため、のはずだった。なのに…。
「おれの存在がチームのためにならないってことか?」
人間不信になりそうだった。しかし落ち着いて考えてみた。
今の自分は技術も体力も明らかに去年より落ちている。試合に出てもまったくチームに貢献できそうもない。こんな状態で突っ張ってみても始まらない。まずは元の自分に戻してからだ。
悔しさを飲み込み、監督の指示に従った。
5月12日、土田は復帰後初めてサテライトの試合に出た。駒場スタジアムで、相手は鹿島アントラーズだった。結果は3-0の完勝。
「今日は、若いチームメートが僕のためにがんばろうと言ってくれた。試合勘を戻して早く復帰できるよう頑張ります」
試合後、取材を受けてそう語った。
100パーセント満足な出来ではなかったが、試合ができることが何よりうれしかった。若い選手に交じってサテライトの試合に出ることへの抵抗はあまりなかった。逆にみんなが気を遣ってくれたのがありがたかった。
その後、土田はサテライト3試合に続けて出場した。4試合で3勝1敗。計6失点したが、2試合は完封勝ちだった。
実戦にも慣れ、いよいよ本格的な復帰を目指す土田にまた、ケガの魔手が近寄ってきた。
93年の夏に左ヒザの半月板を手術し、2年間プレーするうちに、また痛み出してきていたのだった。医師からは再手術を勧められていた。
(続く)
(文:清尾 淳)