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土田尚史「クリア!の声が聞こえる」

第五部 ゴールキーパーとして

② キーパー? やめちゃろか

 1982年春、土田尚史少年は岡山理大附属高校に入学が決まっていた。入部を希望したサッカー部の練習に、入学前の春休みから来るように言われた。

 スポーツなら何でも好きだった土田だが、サッカーは体育の時間にやっただけ。ほとんど経験がないのと同じだった。サッカー部に入った10人の新入生はいずれも中学時代に経験がある者ばかり。強心臓の土田もさすがに引け目を感じた。しかし一つだけ秀でていることがあった。

「おまえ背が高いのう。ゴールキーパーやれや」

「ゴールキーパーですか」

 監督の先生に言われた土田は顔を曇らせた。中学校の体育の時間にやったサッカー。その中でGKというのは、どちらかというとスポーツの苦手な者がやるポジションだった。土田は走り回って豪快にシュートをする方だった。

(キーパーは、一番下手なもんがやるところじゃろうが。サッカー部やめちゃろうか)

土田

練習後のリラックスした土田

(1993年) 

 確かに土田は新入生の中で一番の素人だったが、それでも実際にやれば負ける気はしなかった。別にサッカーが好きで入ったわけではなし、GKというイメージの良くないポジションをやらされてまでサッカー部にいたくはなかった。

 しかし体育コースに推薦で入学したのだから、サッカー部をやめたら学校もやめなければいけない。土田は2日間練習を休んで考えた。

「まあ、ええわ。何でもやってみんとわからん」

 ゴールの中に入ってみた。

「広いのう。こんな広い場所をワシ一人で守るんか」

 監督とは別の、コーチの先生が土田の練習を見てくれた。

「ほら、取ってみい」

 コーチが蹴った球を弾く。キャッチングもポジショニングも、何も言われなかった。ゴールに向かって飛んでくる球をひたすらセーブするだけだった。高い球にはジャンプする。グラウンドは土だから落ちると痛い。身体がアザだらけになった。

 昼休みに、体育館でマットを敷いてセービングの練習をした。

 土田は初めての世界にだんだんのめり込んでいった。

(続く)

 

(文:清尾 淳)