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土田尚史「クリア!の声が聞こえる」
第五部 ゴールキーパーとして
⑧ GKに最も必要なもの
「僕は運が良い。人に恵まれすぎていた。高校に入るとき、大学に引っ張られるとき、社会人になるとき。節目節目でレールに乗せてくれる人がいたから今の自分がある」
土田は2000年に実質コーチとなり(第一部参照)、2002年からはGKコーチとしてチームの指導に当たってきた。
「現役時代を振り返って、ああやっておけば良かった、と思うことは山ほどある」
特にGKコーチは練習のために1日何本もロングボールを蹴るので、現役時代キックがあまり得意とは言えなかった土田が、コーチになった2年間でかなりうまくなった(本人談)。選手のときにもっと練習しておけば良かった、と悔やむこともあった。
しかし自分の精神面の強さを前面に出してきたことは「間違っていなかった」とコーチになってからあらためて感じた。
土田に、GKとして一番必要なものは? と尋ねるとこんな答えが返ってきた。
「プロサッカー選手は、身体能力と技術、そして精神力の3つが大事だと言われる。しかしGKだけは、強い精神力がまずあって、その上で残りの2つを備えている必要があると思う」
高校時代からサッカーを始め、技術や経験の足りなさを精神力でカバーしてきた土田。だがそれは自分だからではなく、元来GKにとっては、強い精神力こそ何より大事な資質だ、という。
「特に浦和レッズのGKは、精神的に強くないといけない。あれだけたくさんのサポーターがお金を払って見に来てくれる。それだけ、みんなの期待を背負っている」
Jリーグに入ってくるGKは、ある程度の成績を挙げたチームの出身であったり、都道府県や全国の選抜、あるいは年代別の日本代表だったりする。しかしボロボロの失点や敗北を喫しても、次に立ち向かっていく精神力が備わっているかは未知数だ。
レッズのGKたちを精神的に強くするにはどうしたらいいか。日々の練習で彼らの技術や身体を鍛えながら、土田コーチの頭からは、そのことが離れないのだった。
(第五部終わり)
【メモ】土田尚史(つちだ・ひさし)1967年2月1日、岡山県岡山市生まれ。岡山理大附属高からサッカーを始め、ゴールキーパーに。大阪経済大時代には日本代表にも選ばれた(Aマッチ出場はなし)。89年三菱入りし、92年の浦和レッズ発足時には正GKとなった。J1リーグ通算134試合出場。2000年を最後に現役を引退し、2018年までコーチ、またはGKコーチを務めた。2019年にクラブスタッフとなり、11月、チーム強化の責任者となるスポーツ・ダイレクターに就任した。
*「サッカー人生ハーフタイム~土田尚史&西野努編」は今回をもって終了します。記事の再掲載を承諾していただいた埼玉新聞社と土田、西野両氏に感謝します。
(文:清尾 淳)