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Weps うち明け話 #1025

「世代交代」(2020年5月15日)

 

 これは僕のまったく個人的感覚だが、自分の年齢が大台を越えたときよりも、一桁目の数字が二桁目の数字を越えたときに、年齢的なヤマを越えたような気分になった。

 つまり20歳になったときはそうでもなかったけど、22から23になったとき「もう大人だ」と感じ(大学生から社会人になったからでもあるが)、33から34歳になったとき「もう若造ではない」と思い(レッズが浦和に来ることが決まったのがこのころ)、44から45歳になったとき「もう完全に折りかえしだな」と人生の後半を考えるようになった(埼玉新聞社を辞めてフリーになったのは47歳)。

 56歳を迎えたころは「会社に勤めていたらあと少しで定年だったなあ」と感じた。さて4年後、67歳になったときは何を感じるのだろう。

 

 かつて福田正博がこんなことを言っていた。

「よく『ベテラン』って言われるけど、その言葉は好きじゃないんだ。『ベテラン』って、何だか『年寄り』みたいに聞こえるんだよね。経験があることは大事だけど、それは『年寄り』ってことじゃないはずでしょ…」

 

 福田がいくつのときだったかは記憶にない。

「ベテラン」と「経験のある選手」は「≒」だと思うが、その2つと「年長者」は「≠」だ。年齢が上であってもキャリアが長いとは限らないし、キャリアが長くてもいろいろな経験はしていない選手もいる。だから福田が言う「ベテランって年寄りみたい」という考えは僕になかったが、本人の受け取り方だから尊重した。それ以来、福田のことでなくても、僕も原稿や取材では「ベテラン」という言葉は極力使っていない。音の長さは2倍以上になるが「経験のある選手」と言っている。

 

 なぜ、このことを思い出したかというと、5月12日(火)に行われたテレビ記者会見で柏木陽介が自分のことを指して「ベテラン」という言葉を使っていたからだ。

 

 質問:以前、まだ大原で練習をしていた時期にも柏木選手の記者会見を行ったが、その頃と比べて精神的に変わった部分はあるか?

 

 柏木:あのときはもうちょっと早くできると思っていたというのが実際のところ。あれから1か月以上経ったが、しんどいというほどすごくしんどいとは思っていない。いろいろ自分の中で、サッカー選手として、人として見つめ直せる時間でもあったので、そういう意味では有意義に使えた。

 ただ、ベテランと言われる年齢で試合に出ないと契約ももらえない状況なので、ベテランの人たちは難しい思いをしていると思う。そういう気持ちがまた自分たちを強くしてくれるのかなということも含めて、ネガティブになりすぎず、自分がやれることをしっかりやっていって、試合が始まったときに自分の力をさらに出せるように意識して日々過ごしている。

 赤ちゃんともいっぱい接することができて、サッカーができないしんどさはあっても、いろんな意味で充実した1か月を過ごせたのかなと思う。

 

 追加質問:「ベテラン」という言葉が出たが、福田正博氏はベテランという言葉が好きではなくて自分では使わなかった。柏木選手が新人だった頃にベテランと言われる選手を見ていたときと今の自分を比べてどうか?

 

 柏木:30歳を超えたらベテランというのは自分が若い頃に思っていたことではある。でも実際に自分が30歳になってベテランかと聞かれたときには『まだまだできるよ。これからやで』と思っていた。ただ、世代交代が言われていることもあって、はっきりとは言いたくない部分もあるが現実的にベテランなのかなと思う。それも含めて、去年はまだベテランと感じないまま試合に出られなかったりケガをしたり気持ち的にもプレーもチームに迷惑を掛けたという思いがあった。

 今年、また戻って試合に出られてこういう状況になってしまった。でも、この状況も含めて自分を強くしてくれた。そしてこれからもっと長くやっていく、やっていきたいと思わせてくれる時間になっている。

 ベテランだけど38歳ぐらいまでやれたらいいと思っている。35歳を超えたぐらいからやっと本物のベテランと言いたいかなと思う。

 

 本来、「ベテラン」という言葉は、その世界での経験が豊富で、習熟している人、という意味だ。しかし、それがネガティブな響きを持ってしまうのは、柏木も言ったように「世代交代」という言葉と一緒に使われるときだと思う。その際に「ベテラン選手」が、まるで若手に取って代わられる存在のように考えられてしまう傾向があるから、その言葉を使いたくない気持ちになってしまうのだと思う。

 

 サッカークラブにおける世代交代は企業の定年制とは違う。

 選手を起用するかしないかは、年齢で物理的に区切るものではなく、能力、それも総合力で判断するべきもの。つまり通常の出場争い、ポジション争いの一部なのだ。

 選手の能力は、個人差はあっても人間だから年齢によって落ちていく部分はある。もちろん経験を積んで上がっていく部分もある。それらを総合したものが、ざっくり言えば選手の能力だ。

 大事なことは、レギュラー選手の年齢が上がって総合力が落ちたので若手が起用される、という図式ではなく、レギュラー選手の力は落ちていないが、若手がそれを上回るまで伸びたからレギュラーが交代する、という形が望ましいということだ。堀口元気がチャンピオンでなくなった関拳児に勝ってもあまり意味がないだろう(漫画「がんばれ元気」参照)。

 

 チームを運営するクラブ、あるいは指導陣は、新人選手の発掘・獲得・育成を常に意識しなければならない。

 有望な新人=たとえばU-18やU-19の日本代表に常時招集されて、自分のチームでの出場機会は少なくてもレベルの高い経験を積めるような選手を獲得すること、あるいはアカデミーで育成することに力を注入し、加入後はチームのコンセプトをしっかりたたき込む。それがしっかり行われていれば、よく言われる「健全な競争」によりレギュラーの交代が行われていくから、ことさら「世代交代」を叫ぶ必要はない。

 

 クラブが「世代交代が課題」と言うのは、自分のところは若い世代が年長者に取って代わるほど育っていません、と白状するようなものだ。30歳を越えた選手は嫌でも若手に負けないよう意識して自分を磨くものだから、そのことによって、若手が乗り越えるべき壁が高くなり「健全な競争」が、さらにレベルアップする。「今季は世代交代を行う」などと声高に叫べば、年長の選手たちによけいな疑心暗鬼を抱かせ、下手をすると競争のレベルを下げてしまうことにもなりかねない。その結果、全体のチーム力が落ちてしまうかもしれない。

 

 柏木にしても、「#1024」で取り上げた槙野智章にしても、そのことは十分意識して今季に臨んでいる。またレッズの若手たちが、意識して「世代交代」してあげないと、レギュラーを勝ち取れないほどヤワだとも思わない。

 現在、レッズには32歳以上の選手が6人いる。今季は、システム変更によるポジション争いと共に彼らの踏ん張りが、レッズを強くしてくれると期待しているのだが。

 

 柏木については、もう一つ書きたいことがあるが、それはまたの機会に。

 

(文:清尾 淳)