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Weps うち明け話 #1036

3,094人の拍手(2020年7月15日)

 

 埼スタへ取材に行ったのは2月21日以来、4か月と18日ぶりということになる。

 スタンドは、7月4日の横浜FM戦で見たビジュアルとは違ってシンプルな赤白黒に分かれていた。思えば03年のJリーグカップ決勝のとき、国立競技場のスタンドも赤白黒のストライプに染められていた。鹿島サポーターエリア以外の約300度、ほぼ一周に近い絵だった。鹿島戦ということでつい連想してしまったが、この日はストライプではなく、スタジアムの北側が赤、中央が白、南側が黒と全体がレッズカラーの三色に分かれていた。

 

 観客を入れる大型イベントのファーストステップとして5,000人以下という制限がある試合。どの層を購入対象にすれば5,000枚のチケットが混乱なく、かつきれいにさばけるか。販売が1週間前からでないとできないという制約のなか、クラブもだいぶ苦戦したようだ。前日に漏れ聞いた話では5,000枚にはだいぶ届かないように思えた。

 

 赤白黒のスタンドの中に点在する、埼スタの“素”の色。埼スタのイスは青や黄緑、クリーム色(?)などだ。その「点」が少しずつ入場者によって消されていくような感じで埋まっていった。だが、カウントしたわけではないが、キックオフ近くになってもだいぶ点のままで残っていたと思う。

 ところが選手紹介や選手入場の際、あるいはレッズの良いプレーがあったときの拍手の音は何かで増幅されているのかと思うほど大きかった。5,000人の拍手ってこんななのか、と思った。実際には3,094人だったわけだが。

 

「そりやそうですよ。手が痛くなるくらい叩きましたから」

「席の前に、そういう紙が貼ってあったし、一生懸命拍手しました」

 翌日、何人かのサポーターに話を聞くと、みんな口をそろえて「思いきり拍手した」と言う。

 席の前の紙、とは「選手を走らせるのはここにいる5000人」と書かれたものだ。

 あらかじめ告知された応援に関する禁止事項に入っておらず、最も選手に伝わるものが拍手だった。似た字だが「手拍子」はNGだった。行為としては同じじゃないか!と思うが、手拍子は応援を扇動することになるからだそうだ。

 それがわかっていたからこそ、みんな思いを届ける唯一の手段とばかりに思いきり手を叩いたのだろう。3,000人の拍手の音量が本来どれくらいのものなのか、そういうデータは僕の中にないが、この日の音量を標準としたのでは大きすぎるかもしれない。6万人がこの気持ちで手を叩いたら、どれくらいになるのか、いつか経験したい。

 

 試合は1-0でレッズの勝利。内容的に素晴らしかったとは言えないが、再開後ホームで初勝利。リーグ開幕から4試合負けなしだ。なんと言っても中断前は公式戦2試合で4失点していたのが、再開後は3試合で1失点。決して悪くはない。一方、2試合で8得点したのに比べ3試合で3得点は少ないが、安心できる内容ではないだけに緩みは出ないだろう。

 

 レッズの成績がまずまずなこととあわせて、最大の喜びはJリーグが再開したこと。そして少ないとは言え、ファン・サポーターがスタジアムに戻ってきたことだ。

 この歩みを後戻りさせてはいけない。

 Jリーグとプロ野球は、大規模イベント復活の先陣を務めている。野球やサッカーに興味がない人でも、この2つの団体が当初の目論見どおり試合を続けていけるかどうかは注目しているだろう。

 

 これに関して12日の試合については、もう一つ書かなければならないことがある。それは次回に。

          “すっぴん”の埼スタ。ある意味、珍しい=2007年撮影

 

(文:清尾 淳)