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Weps うち明け話 #1046

ゴールへのこだわり(2020年10月12日)

 

 10月10日の鳥栖戦は久しぶりにアディショナルタイムに決勝点を奪って勝った。鳥栖まで行ったファン・サポーターも少なくなかったようだが、スコアレスドローのまま終わったら大きなストレスを抱えて帰ることになっただろう。

 

 どっちに転んでもおかしくなかった試合で勝点3を得たポイントは、もちろん後半24分ごろの鳥栖のPKを西川が触ってセーブしたことだ。あと数ミリ、ボールが内側に入っていたらポストに当たってゴールインしていただろう。天秤ばかりの針が微妙に揺れた瞬間だった。

 もう1つのポイントは、言うまでもなく汰木の決勝ゴールの場面だ。長澤(だったと思う)のクリアボールをうまく収め前線に流した杉本、スペースのあるところで無類の強さを発揮しているマルティノス、その絶妙のクロスに相手より一瞬早く触ってゴールした汰木、「それぞれが持ち味を発揮して」生まれた決勝点だった。

 

 レッズにとって9月23日の清水戦以来、新聞ふうに言えば約400分ぶり(アディショナルタイムを無視すれば391分ぶり)の得点が生まれた背景は、鳥栖のホームだったことがあるかもしれない。アディショナルタイムに入ってお互いにチャンスをつぶし合った展開で、あのゴールの直前は、鳥栖がボールを奪いレッズ陣内でのクロスまで持って行った。ホームでどうしても勝ちたいという意識が、そのとき鳥栖の選手たちをやや前がかりにしていて、それがレッズのカウンターが成功する要因になっていたということだ。

 

 たとえば後半25分、西川がPKを阻止した後だが、杉本とのコンビネーションでマイボールにした柏木が右サイドへ流れる杉本にパスを送り、杉本がタメを作ってクロスを送った場面があった。あれもレッズのカウンターだったが、味方が上がってくる時間を杉本が作っている間に、鳥栖の選手は6人が帰陣していた。その結果、クロスはDFにクリアされた。

 一方、得点が生まれた場面でも最終的には6人の鳥栖の選手がゴール近くにいたが、マルティノスに併走したり汰木を後ろから追ったりで、クロスを待ち構える態勢は整っていなかった。

 

 マイボールにしてからのレッズが展開するスピード、攻撃が失敗してから鳥栖の選手が帰陣するスピード、そのわずかの差がレッズに391分ぶりのゴールと4試合ぶりの勝利をもたらした。形は違うが、西川のPKセーブと同じギリギリの差だったのであり、汰木が漏らした「やっと取れたあ~」という言葉は、汰木個人の心情をストレートに表わしたものだろうが、チームの状況をもピタリと言い当てたものだった。

 

 試合後のリモート記者会見で汰木は「自分の得意な形からのゴールではなかったが」と語っていた。

 汰木の得意な形と言えばドリブルからのシュート、特に左45度から右足で巻き気味に放つシュートだが、その「ゾーン」は汰木に限らず多くの選手が打つエリアだ。ホーム鳥栖戦の武藤のゴールもそうだった。逆に言えばそれだけ相手DFもケアしているはずだからJ1の守備陣を相手にゴールを決めるのは簡単ではない。得意な形に磨きをかけることも大事だが、前めの選手としては別の得点パターンを身につける努力も絶対に必要だ。

 たとえば左サイドハーフの選手なら右からのクロスに合わせてゴール前に入っていくこと。クロスに合わせる選手が1人より2人、2人より3人になった方が相手DFは守りにくくなるし、得点の可能性は高まる。

 

 先に例を挙げた後半25分の右クロスの場面では中央に柏木、ファーサイドに汰木がいた。柏木を越えたボールは相手DFに頭でクリアされたが、そこへ汰木が競りに入っていたら、ゴールはならずともクリアでなくこぼれになって、柏木か後方のエヴェルトンにシュートチャンスが生まれていたかもしれない。

 点で合わせるシュートは汰木の得意技でないのかもしれないが、それを意識するようになればチームの得点も本人の得点への絡みも増えていくはずだ。今回、点で合わせてレッズ初ゴールを挙げたのをきっかけに、そこへも触手を伸ばしていって欲しい。平たく言えば、もっとゴールに貪欲であるべきだと思う。

 冒頭部分、決勝ゴールのことを書いたくだりで僕はあえて「それぞれが持ち味を発揮して」と書いた。「僕は違う」と汰木は言うかもしれないが、鳥栖の選手2人とのスプリント合戦に勝ったスピードが持ち味でなくて何なのか。あとはその持ち味をドリブルや縦パスに追い付くときだけでなく、チャンスにゴール前へ飛び込んでいくときにも生かして、シュートしていって欲しい。そういう経験を積んでいけば、たとえば9月26日の横浜FC戦で、後半45分にマルティノスが上げたクロスに逆サイドで飛び込んだような場面で、汰木のゴールが生まれていくのではないか。

 

 ここからは汰木に限った話ではない。

 数えると9月13日の札幌戦からアウェイ3連勝ということになる。アウェイでは今季7勝3敗。悪くない以上の勝敗だ。トータルでは10勝3分け9敗。目標からはまだ遠いが順位と同様に中庸の成績だ。

 だがホームでは無得点での4連敗を含め3勝3分け6敗と全く期待に反した成績となっている。埼スタでレッズがゴールネットを揺らしたのは12試合で半分の6試合、合計8回だけなのだ。アウェイでは19得点を挙げているが、現在アウェイにまで行くファン・サポーターは少ないし、目の前でレッズのゴールを見てもその場で喜びを発散させることができない(駅前不動産スタジアムでは思わず立ち上がった人が何人もいたようだが)。

 鳥栖戦が、どっちに転んでもおかしくなかったように、F東京戦も名古屋戦も勝つチャンスは十二分にあったと思う。あの2試合は天秤ばかりの針がわずかに向こうを指した。

 その針をこちらに引き寄せるのは、もちろん練習によるプレー精度の向上と大いなる闘志が必要で、前者は少しずつ上積みされていると思うし、後者もそれを疑うわけではない。ただ「闘志」と一口に言うだけでなく、攻撃の際のゴールへのこだわりをもっともっと強くして欲しいというのが、僕の願いだ。

 

(文:清尾 淳)