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Weps うち明け話 #1051

飲水タイムの「目」(2020年11月19日)

 

 Jリーグの写真を撮っていたころと記者席で取材している今とでは、当然試合を見る角度が違う。座っているカメラマンの目線は立っている人より低いから、試合中は選手の顔がよく見えた。

 選手によって自分の足もとを見る時間が長かったり短かったりする。小野伸二などは、ボールをキープしたりドリブルしたりするとき、ほとんど下を見ていなかったのではなかろうか。顔を上げている時間が長い選手は写真を撮る側からするとありがたい。最も小野選手はけっこう球離れが早いので、シャッターを切ったときにはボールがすでになかったりした。そんなのは僕だけ? そうかもしれない。

 

 それはともかく、試合中の表情がはっきり見えたあのころは(角度の問題だけではなく、望遠レンズだと大きく見えた)、だいぶ苦しそうだなとか、気合が入っているなとか、何となく選手の心境がわかる気がしたものだ。今は双眼鏡で見ないと表情までは見えず、角度的に試合中は見にくい。第一、ずっと双眼鏡で見ていたら全体の展開がわからない。

 

 日産スタジアムの記者席はわりと低い。埼スタで言うとロアースタンドの真ん中くらいの高さではないだろうか。だから選手の顔は他のスタジアムに比べると見やすい。

 先日、11月14日(土)のJリーグ横浜FM戦の後半飲水タイム。選手たちがどんな表情をしているか、双眼鏡でのぞいてみた。僕の席はちょうどレッズベンチと同じラインにあったから、選手たちを真正面から見ることになった。

 おや?

 

 後半の飲水タイムと言えば、ちょうど横浜FMに5点目が入ってスコアが1-5になった直後だったのだが、レッズの選手たちの目は闘志にあふれているように見えたのだ。見える範囲の選手を何人も見直した。

 見間違いや僕の思い込みではない。その目は1-5で負けているチームの選手たちのものではなかった。まるで競っている試合の途中みたいで、その表情は「やってやろうぜ!」と言っているかのようだった。

 

 残りは25分くらいか。ここから試合をひっくり返すのはさすがに難しい。だが試合結果とは別に、選手たちがどこまで戦う姿勢を貫けるか、あの目に宿る炎をプレーでどう表現するのか、それが楽しみになり、さらに前のめりで見ていた。

 

 4点リードしている相手が最後は流してくることも割り引いて考えなくてはならないが、試合の終盤は前への推進力が持続され何度もチャンスを作っていた。実ったシュートはマルティノスの1点だけだったが、面白い時間が続いたと思う。横浜FMの6点目がなければ最後の15分間だけ切り取っておきたいくらいだった。

 

 たとえ健勇とレオと青木のシュートが全部入っていたとしても5-6で負けは負け。1-5からやる気を出して頑張っても意味ないよ。

 そういう考えもあるだろう。僕はあの試合、立ち上がりに続けて失点したあたりはちょっと強度が不足していたのかな、と思ったが、全体を通じて頑張っていなかったとは思えない。前線からのプレスを横浜FMのオートマティカルなパスワークでかわされ、しかも同時にこちらのスペースを突かれたことで失点を重ねてしまったが、8月8日の名古屋戦の特に前半のように、どうしようもなかった状態とは違った。最終的なスコアは同じだったが。

 

 1-5とリードされても闘志を燃やしていることを「遅えよ」と否定的にとらえるのではなく、「そうだ、1点でも2点でも返せ!」とポジティブに見ることが、次につながるということだろう。

 そしてレッズは次につなげた。

 昨日の神戸戦は、相手がACLをにらんで戦力を落としてきたのだろうし、その相手にあわや引き分けという試合だったが、最後まで戦って勝点3を得た。1-5でも戦うことをやめないチームだからこそ、0-0の試合で最後には勝利できるのではないか。気持ちがあれば必ず勝てるとは限らないが、気持ちがなければ勝つことは難しい。

 

 そして、そういうチームだからこそ「上位への進出をあきらめない」という選手たちの言葉から本気度が感じられる。

 

 次のG大阪戦。あの目の炎を燃やし続けて欲しい。

(文:清尾 淳)