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Weps うち明け話 #1057

勇気と判断(2020年12月28日)

 

 J2の最終節・福岡vs徳島に続いて、昨日の天皇杯準決勝・G大阪vs徳島を見た。

 来季浦和レッズに来ることが決まっている選手を、試合で見ることは普通にある。だが「このチームの監督が来季レッズの指揮官になるから」と理由で他チームの試合を見るのは初めてだった。単に「監督が来季来る人だから」というだけでなく、その指導がしっかり徳島のサッカーに表われている、ということもあった。

 

 これまでレッズで「つなぐ」ことが強調されたのは、2009年~10年のフォルカー・フィンケ監督と12年~17年7月のミハイロ・ペトロヴィッチ監督の時期だった。

 ミシャ監督時代に感じた一番の印象は、相手からボールを奪った際に、それが自陣ペナルティーエリア内であり相手選手が複数近くにいたとしても、大きくクリアするのではなく、エリア内でもつないで攻撃を開始することが多い、ということだ。

 最初は見ていて怖かった。なにしろミシャ監督が広島にいたころ、レッズがそこを突いて敵陣でボールを奪い得点する場面も見ていたから。これを貫徹するには、パスを受ける選手の素早いポジショニングと、そこへ正確に出す技術が必要だし、意識の変化と勇気も大事だ。

 

 もう一つの印象は、これは両監督の時期に共通していたことだが、相手のエリア近くまで進んだときにシュートを打つのかパスを回すのか、という状況になったとき、パスを選択することが多かったことだ。より得点できる可能性が高い位置にいる選手に任せる、という共通意識が徹底していたのだろう。だがシュートを打つのが遅れて相手の守備態勢が整ってしまうということもあるわけで、そのバランスが問題だった。回すにしても打つにしても、ここでも勇気がいる。

 

 選手の多くは、コンビネーションでボールを運びフィニッシュまで持って行くサッカーが楽しいに違いない。そういう意味ではつなぐことをベースにしたサッカーをキャンプなどで集中して訓練することで、チームに浸透することは難しくなかったのだろう。2009年も2012年も、開幕したときには、チームは前年から大きく変化していた。

 だがサッカーはパスを何回通すかを競うわけではなく、点を取り合うスポーツ。自陣では点を取られないことが最優先だし、敵陣では相手ゴールを割ることが最も重要なことだ。つなぐか蹴るか、回すか打つか。練習ではなく試合でその判断を適切にすることが、技術を磨くことと共に求められるだろう。

 一つひとつのプレーにおける勇気と判断。これがまずレッズの見どころになりそうな来季だ。

 

 年末に見た2試合ではいずれも徳島が負けた(J2では優勝を決めた試合だったが)。特に天皇杯では2点リードされた終盤でも、自陣でつないで攻撃を始める場面があり、レッズもそういう時期があったなと、少し懐かしさも感じた。

 一方、2試合とも無得点ではあったがチャンスは少なくなかった。そしてバイタルエリアに攻め入ったときに「シュート打てよ!」と叫びたくなる場面はそれほどなかったのではないかと思う。

 

 来季のレッズがどう変化していくか、今は不安よりも楽しみがある。

 だが現在の日本の環境で、その過程をどこまで実際に見ることができるのか。キャンプの取材は許されるのか。練習試合は公開されるのか。そこに関しては不安しかないのが残念だ。

 

(文:清尾 淳)