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Weps うち明け話 #1061

いつの日にか(2021年1月8日)

 

 

 「まだ、やれる。まだ負けていない。」

 福田莉子は、ボールを抱えてセンターサークルに向かった。

 

 1月7日、J-GREEN堺。JFA第24回全日本U-18女子サッカー選手権決勝。

 浦和レッズレディースユースは、日テレ・東京ヴェルディメニーナに敗れた。

 試合開始からずっと風速11メートルの風に雨や雪が交じる悪コンディションの中、後半1-2とリードされたが78分に追い付き、2-2で10分ハーフの延長にもつれ込んだ。延長でも終始互角の展開だったが、延長後半終了間際、メニーナのシュートがネットを揺らした。赤いユニフォームの選手たちが肩を落とす中、キャプテンの福田は試合の再開を急がせることでチームメートを鼓舞した。

「まだ、みんなで戦える。」

 メニーナの3点目が入ったのは延長後半10分を回っており、もし再開が遅れていればキックオフ直後に終了の笛が吹かれていたかもしれない。しかし気を取り直したレッズレディースはキックオフからパスをつなぎ反撃を開始した。このまま前線にボールが出れば最後の同点機を作れるかもしれない。そんな期待をしたとき、右サイドでボールをカットされアウトになった瞬間、主審の笛が鳴った。

 今度は福田もうつむき、左手で口を押さえた。嗚咽をこらえていたのだろうか。

 

 浦和レッズレディースユースは2009シーズンのこの大会で初優勝。

 前年の準優勝からステップアップしての栄冠で、浦和レッズレディースが誕生して5年目の快挙だった。

 しかし、その後10年間王座に就いたことはなかった。立ちはだかったのはほとんどがメニーナだった。関東予選で勝ったことは何度もある。しかし全国のベスト4以降の対戦では決勝であろうと準決勝であろうと、一度は3位決定戦でもメニーナに勝ったことはなかった。

 11年ぶりの優勝を。メニーナを倒しての優勝を。それが合言葉だった。

 

 3年前の7月、第22回全日本女子ユース(U-15)サッカー選手権で浦和レッズレディースジュニアユースは優勝した。福田たちが中学3年生のときだ。決勝の相手はJFAアカデミー福島。強豪を倒して全国制覇を果たした経験は大きな自信になった。

 福田も「この大会でも優勝して2冠目を獲りたかった。」と語る。

 3年前の優勝メンバーのうち、同学年の選手は全部で9人。レッズレディースユースで高校3年生が9人残っているのは過去最多だ。3年前もレディースジュニアユースでキャプテンを務めていた福田はチームの力をよく知っていた。

 

 思いは、叶わなかった。

 時間が少しズレていたらメニーナの3点目はなくPK戦になっていただろう。あるいは時間が少しズレていたらレッズの反撃が実って3-3になっていたかもしれない。勝負の天秤ばかりは微妙な揺れ方をする。

 表彰式で準優勝の賞状を受け取るときは顔を上げていた福田だが、メニーナの表彰を見つめる目は濡れていた。しかし、スタンドの家族やファン・サポーターに向かってしっかりした声で応援への謝辞を述べた後、こう続けた。

「後輩たちの応援もよろしくお願いします。」

 

 「自分たちが抜けてもレディースユースを応援してもらって、後輩たちに今年のリベンジをしてもらいたい。」という気持ちだった。

 何人かのチームメートはレディースのトップチームに昇格する。大学に進む福田は最後にこう語った。

「また、このクラブに戻ってこられるように、大学サッカーで頑張ってプロになりたいです。」

 

 昨年まで、育成年代の女子サッカー選手があまり口にできなかった「プロ」という言葉。WEリーグの誕生で、それが目標となる時代になった。ハードルはこれまでより高くなるかもしれない。しかしクラブも、大学へ進んだ育成出身たちの「その後」をしっかり見ている。

 

 いつの日にか、福田莉子らこの日のメンバーの多くが浦和レッズレディースに戻ってきて、日テレ・東京ヴェルディベレーザに勝つ試合を見たい。

 そう思わせてくれた日だった。

 

EXTRA

 お詫び。初期の掲載では最後の部分が「浦和レッズレディースに戻ってきて、日テレ・東京ヴェルディメニーナに勝つ試合を見たい」となっていましたが、「日テレ・東京ヴェルディベレーザ」の誤りでした。本文は訂正してあります。

 

(文:清尾 淳)